大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)17号 判決

控訴人(原告) 森山日富 外一五〇名

被控訴人(被告) 株式会社西日本新聞社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人らに対し、それぞれ別紙未払賃金合計表合計欄記載の金員を仮りに支払え。申請費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の事実上、法律上の主張

以下の点を補足、追加、訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一、控訴人ら代理人の主張

(一)  平和協定について

(1) 平和協定

西日本新聞争議が深刻化した最大の原因は、争議の焦点が経済的な問題をこえ、団結権に直結する平和協定問題に移つたところにあつた。したがつて、本件を正しく理解するためには、被控訴会社(以下単に会社という。)が控訴人らの所属する西日本新聞労働組合(以下単に西労という。)におしつけようとした平和協定がいかなる内容のものであつたか、西労はなぜかくも頑強に平和協定のおしつけに反対したかを明らかにしなければならない。

(2) 平和協定をおしつけるためのロツクアウト

本件争議は、もともと組合の賃金引上げ要求からはじまつた。西労が参加している新聞労連の賃金斗争の一環として争議が行われたのである。しかるに会社は、組合の賃上げ要求に対して、昭和三九年四月一八日に平和協定を組合に認めさせようとする回答を行つてきた。これは組合の賃金引上げ要求に対する回答という形をとつていたが、実質的には平和協定という会社の構想をこの機会に労働組合に承認させようとする積極的な内容のものであつた。それ以来、会社は組合が平和協定の基本線をのまない限り、賃上げ額の交渉には入らないという態度を取りつづけた。会社にとつても、組合にとつても、会社の提案した平和協定を認めることが賃上げの額の折衝をするための前提となつた。賃上げ斗争としてはじまつた労働争議の焦点が平和協定という会社の提案を労働組合が承認するか否かという異質のものに変つてきた。そして西労にこの平和協定を承認させるための手段として、会社はロツクアウト攻撃をかけてきたのである。このことは本件争議の経過とくに団体交渉における経過に徴して明らかである。

(二)  西労ストとその影響

(1) いわゆる三二六波ストの内容

西労の行つたストの内容は、斗争委員スト、要員スト、部分スト、超過勤務拒否に類別されるのであるが、会社は、西労のストによる影響を、ロツクアウトの正当性を導き出すための決定的要因としてあげている。そしてロツクアウトの関係でストの影響を問題にするのであれば、組合が、そのようなストをなすに至つた原因やストの形態などを併せ考えなければならない。

(イ) 斗争委員スト

これを細別すると、斗争委員が斗争委員会に出席することを可能ならしめるためのスト、団交出席を可能ならしめるためのスト、組合用務遂行の時間を得るためのストに分けることができる。組合の斗争委員が斗争中に斗争委員会や団体交渉に出席し、またその他の組合用務を遂行するために多大の時間を要することは論をまたない。しかるに会社は、これら斗争委員にスト指令によるのほかは職場を離れることを認めようとはしなかつた。会社は平常時には認めていた斗争委員に対する便宜供与を斗争中はいつさい認めないという手段をとつてきた。しかし、だからといつて斗争委員が斗争中に斗争業務を放棄するわけにはいかない。そのためやむを得ず行われたのが、斗争委員に対するスト指令である。そしてその数は、指令回数一〇二回の多きに達している。会社が問題にしている「延々三二六波」のストのうち、約三分の一は、実は、会社がスト指令を余儀なくした斗争委員の斗争業務執行のための職場放棄であつた。斗争委員ストは、会社が組合の斗争委員に平常どおりの便宜供与を認めないという非常識な態度をとつたことから余儀なくされたものである。その意味では、本来ならばスト指令を出さなくても済むものを、会社側が組合にスト指令を出させるように仕向けたとみることができる。もともと斗争委員の数と氏名は特定しており、会社が斗争委員に便宜供与を認めない態度をとるかぎり、斗争委員がしばしば斗争委員としての業務遂行のためにストに入らなければならないことは、会社には予知されていたはずである。したがつて、ロツクアウトとの関係で、ストの影響という観点からみるかぎり、これら斗争委員のストは、考慮の外におかるべき性質のものである。

(ロ) 要員スト

斗争委員でない組合員が、種々の組合用務を遂行するために職場放棄をせざるを得なかつたものである。ビラ貼り、組合ニユースつくり、オルグとしての出張、他労組との連絡、諸会議への出席など、さまざまな組合用務を遂行するための要員獲得を主たる目的としたスト指令である。そしてその回数は、九二回もの多くにのぼつている。労働争議において、ビラつくり、ビラ貼り、ビラまき、組合ニユースつくり、他労組との交流、他地区へのオルグ連絡などは、欠くことのできない活動となつている。このような組合業務が、斗争委員だけでまかないきれるものでないことは、論をまたない。そこでそのための要員確保を直接の目的としてスト指令がだされることになる。これは、いかなる労働争議にも随伴するきわめてありふれたスト形態であり、ロツクアウトとの関係では、ほとんど論ずるに足りないものである。

(ハ) 部分スト

ある職場の西労組合員が、まとまつて職場を離れ、学習や集団討議、意思統一などのために集りをもつためのスト指令である。その数は七一回であつて、これもまた、組合員を一ケ所に集めることを主眼とし、会社への打撃は第二次的に考えられたスト指令であつた。西労の斗争戦術のなかで、ストライキらしいストライキといえば、これだけである。しかもこれとても他の多くの争議にみられない右のような特殊性をもつていたのである。

(ニ) 超過勤務拒否

所定時間だけ仕事を行い、それ以上の残業をしなかつたものである。これを西労ではスト指令をだしてやつていたのであり、その回数は六三回となつている。元来、西労の組合員は残業の義務を負うものではなかつた。したがつて残業をしないのは当然のことであつて、残業をしないことをストライキと見ることの方が、かえつて不自然である。この戦術は、所定時間だけの労働を行い、それ以上の残業をしないというだけのことであるから、会社業務の正常な運営という関係では、ほとんど問題になり得ないものである。

西労のとつた斗争方法がこのようなものであつたことは、本件ロツクアウトの正当性を論ずるに当つて、決定的に重要である。なぜなら会社は自から組合にスト指令をださせるように仕向けながら、ストによる影響を誇大にとりあげるという方法をとつているからである。

(2) スト実施の方法

会社は、西労ストのやり方をいかにも西労が会社を困らせるようなやり方でストを行つたように主張している。しかし西労のストは、決してこのようなものではなかつた。会社において過去何回となく行なわれてきたのと同じ方法のストが行われたに過ぎず、また、西労以外の三労が行なつたのと同じ方法でストが行われたに過ぎなかつた。そしてそのやり方も、法律上争議の予告義務を負つていない多くの民間労組(新聞労連を含む)におけると、まつたく同じ方法によるストライキであつた。

(3) ストによる影響

西労のこれらのストは、決して会社が主張するような混乱を会社に与えたものではなかつた。もともと西労の組合員は会社の従業員の中では少数を占めているに過ぎず、会社は他の会社にくらべると異例と思われるほど数多くの非組合員をようしていた。また、組合員だけをとつてみても西労は三労にくらべて、はるかに小さいものであつた。そのため西労の組合員の一部が職場を放棄したとしても、それは非組合員や三労の組合員あるいはストに入つてない他の西労組合員などによつて容易に穴うめできる仕組みになつていた。西労としては会社への打撃を第一義に考えていなかつたので、ストに入つた穴うめの労働を他の組合員がしたとしても、それをピケで阻止するようなことはしなかつた。したがつて、ストによる業務上の影響は、ほとんどなかつたといつてよいのである。このことは会社の新聞発行がまつたく支障なく行われたことからも窺がえる。会社は締め切り時間の繰り上げや、合版などの措置をとつたことを、さも非常手段であつたかのように強調している。しかし締め切り時間の繰り上げや合版が異例のことでなく、増ページや色刷りなどの場合には平常時でさえ同様の措置がとられていたこと日常茶飯事といつてよいくらい多かつたのである。なお、締め切り繰り上げや合版はロツクアウト中も続けられていたのであるから、非常事態を切り抜けるために、ロツクアウトをしたという会社の主張は、明らかに矛盾している。しかるに会社は、ストは連日の如く予告なくして波状的に繰り返され、しかも新聞発行行程は、極めて時間的に制約された高度の流れ作業で、瞬時の停滞を許さない性質のものである。したがつて会社は、ストに備えて予め応援要員の確保に努めるとともに、常時職制を待機せしめ、スト実施の都度、早急に応援要員および待機職制の代替配置などの応急措置を講じたのであるが、これがため職制は長期に亘り長時間の勤務を余儀なくされ、かつ、発送職場の秩序維持のため、ロツクアウト通告当時には、肉体的精神的に疲労困ぱいし、辛うじて非常工程を実施する状態となり、一方紙面もスト実施時における代替配置の際の停滞混乱、代置職制の不慣れなどに因り、誤字、誤植が多くなり漸次低下するに至つたと強調する。しかしながら、そのようなことはあり得ないはずである。なぜなら

(イ) 「ストは連日予告なく」というが、ストにはもともと予告義務の定めはなく、個々のスト指令をその都度、予告するなどということは、わが国の労働争議では行われていないのである。

(ロ) 「ストは波状的に繰返された」というが、組合が全面無期限ストという強力な戦術をとらない限り、ストが波状的に繰り返される結果となることは避けられない。三労ストも西労ストと同じく連日予告なくして波状的に、繰り返されたのである。

(ハ) 「新聞発行行程は極めて時間的に制約された高度の流れ作業で瞬時の停滞を許さない」というが、現在の多くの産業のうち、時間的に制限された高度の流れ作業でないものは稀である。時間的制約とか流れ作業の特殊性という点からみると、新聞製作における時間の制限は、一定時間を過ぎると原材料が廃品になつたり、設備が破壊されたりする鉄鋼、化学その他の多くの近代産業の比ではない。このことは新聞社においては合版や原稿締め切り時間の延長という簡易な方法によつてストの影響に対処できることからも窺えるのである。

(ニ) 「会社はストに備え予め応援要員の確保に努め」というが、ストが労働者の職場放棄であるかぎり、会社が生産を停止させないためには代替要員が必要になつてくることは当然の理である。むしろ本件争議においては多くの職制や非組合員、ストを行つていない三労組合員などがおり、スト代替要員がスト実施者よりも、はるかに多人数であつたというところに、他の労働争議にはみられない特殊性がみられるのである。

(ホ) 「職制は長期に亘り長時間の勤務を余儀なくされ、肉体的精神的に疲労困ぱいし」というが、組合のストライキにもかかわらず、生産(新聞発行)が確保できたということは、一般的には異常のことである。ストをしている労働者はその間賃金請求権をあきらめているのに、会社は通常どおりに生産を維持しているという結果を生みだすために、職制が「長時間の勤務を余儀なくされ」たり「肉体的精神的に疲労困ぱい」するのは、もとより避けられないことである。これらの疲労困ぱいは、労働者のストによつて生じた結果というよりも、労働者のストにもかかわらず、通常どおりの生産を維持しようとした会社の政策から生じた結果というのが正確である。なお、多くの非組合員や三労組合員が就労していたのであるから、スト対策による職制の「長時間の勤務」や「疲労困ぱい」の程度は、通常のスト対策の場合にくらべて、はるかに軽微であつたことは否定できない。なぜなら、通常のストの場合には、千数百名中の千名ないしそれ以上の人員のストに対し、数十名ないし百数十名がスト対策に当るというのが普通である。しかるに本件においては、二百名ないし三百名の西労組合員(人数は時間によつて差があつた。)中のさらに少数の人たちの指名スト、部分ストに対して、千数百名の職制、非組合員、三労組合員がスト対策に当ることができたからである。

(ヘ) 「発送職場の秩序維持のため肉体的精神的に極度に疲労困ぱいし」たというが、発送職場における紛争は、会社の不必要な挑発によつて起つたものであつた。長年にわたる職場慣行を会社が一挙に会社側に有利に解決しようとしたことから発送職場問題が起つたのであり、発送職場の紛争が西労ストと時期を同じくした原因は、もつぱら会社側にあつたのである。

(ト) 「辛うじて非常工程を実施する状態となり」というが、非常工程は、その言葉に似ず、通常の新聞製作においても、しばしば行われたことであつた。むしろ非常工程がロツクアウト実施中にも、つづけられていたことに留意しなければならない。非常工程という事態を避けるためにロツクアウトを行つたというのが正しいならば、ロツクアウト実施後も会社が非常工程をつづけたということは、明らかに矛盾である。

(チ) 「誤字、誤植が多くなり紙面が低下した」というが、かかる事実は絶対に存しない。

(4) 経済的損失について

会社が営利会社であり、新聞発行を業とする株式会社であるかぎり、会社の業務遂行という点で、もつとも重要視しなければならないのは、新聞紙が予定の部数だけ印刷されたかどうか、それが所定の時間内に読者に配達されたかどうかである。しかるに新聞は予定どおりの部数がきちんと印刷されており、所定の時間内に発送され、読者のもとに届けられているのである。この点で支障がなかつた以上、西労のストは会社の業務遂行に対して実質的にはほとんど打撃を与えなかつたといつてよく、まして、会社に経済的損失を及ぼすことはなかつたというべきである。

(5) 三労ストとの関係

昭和三九年四月二一日から五月六日までは、西労のほかに三労もストライキを行つている。三労の行つたストの規模は、むしろ西労のそれよりも大きいぐらいであつた。三労でも部分ストや指名ストをしばしば行つており、それが事前に会社に予告されていなかつたことも西労の場合と同様であつた。したがつて会社への打撃という面から考えるなら、西労と三労がともに斗争を行つていた四月二一日から五月六日までの間の方が、はるかに大きかつたとみなければならない。しかるに会社は、その間はロツクアウトを行なおうとはしなかつた。そして三労がストを中止した後で、換言すれば会社への打撃が緩和されたはずの時期になつて、会社は企業防衛という名のもとに、西労だけを相手にロツクアウトを実施したのである。このことは西労のストによつて打撃を受けたという会社主張の矛盾を雄弁に物語るものであり、本件ロツクアウトが争議による打撃以外のところに、ねらいをおいていたことの証左である。

(6) ロツクアウト直前における西労スト

なお、ロツクアウト直前のころ、西労は漸次ストを緩和する方向に動いていた。組合の経済的状態からみて、これ以上ストを強化することが困難になつてきたし、平和協定に対する組合員の理解も深まつてきたので、従来のような学習や意思統一のための集会をもつ必要が少なくなつてきたからである。そして組合は、会社の大攻撃に対してストを中心に斗うのでなく、長期柔軟の構えで抵抗していこうという方針をとりはじめていた。これはもちろん斗いの中止ではないし放棄でもない。ただ、ストに頼るのでなく組合員の自覚を高め、団結を強めるなかで長期の斗いを組んでいこうとする構えである。組合がこういう方針をとるとストによる影響はそれだけ少なくなつていく。このことを承知のうえ西労は長期柔軟な戦術方針を決定していた。ところがその矢先き会社は西労に対してあたかも西労を希望しない全面無期限ストに追い込むかの如く、無期限の全面ロツクアウトの攻撃をかけてきたのである。このこともまた、西労ストによる打撃を回避するためにロツクアウトを実施したという会社の言い分の矛盾をあらわしているのである。

(三)  発送職場における紛争

(1) 紛争の原因

発送職場における紛争は、長年にわたつて行われてきた労働組合の職場情宣を、会社が発送職場についてだけ一方的に禁止したことからおこつている。作業時間中の職場情宣といつても、それは、従業員の作業の妨害になるようなものではなかつた。しかも、労働組合が発足して以来、長い間守りつづけてきた職場慣行である。労働者にしてみれば、職場におけるひとつの既得権ともいうべきものである。これを会社は、発送職場についてのみ一方的に禁止したのであるから、労働者が容易にこの禁止を受け入れなかつたのは当然である。

(2) 職場の混乱について

会社は、西労は本件スト通告後会社に対し二一時からの職場情宣の許可を求め、会社が休憩時間中に教宣すべき旨を要請したにもかかわらず、しつようにその許可を強要し、西労斗争委員は発送職場で作業時間中職制の制止を無視して教宣を強行し、あるいは作業時間中の西労組合員と呼応して職制を罵り、吊し上げ、ために職場は全く混乱する事態が続いたと強調するが、かかる事態は絶対にない。しかもこれでは発送職場における紛争が、会社のこれまでの慣行を無視した一方的、強圧的、実力的な職場情宣圧殺によつておこつたものであるという原因が完全に見落されているのである。

(3) 労働協約との関係

労働協約で労働時間内の組合運動や会社施設内の組合運動を禁止ないし制限しているのは、西日本新聞社にかぎらず、普通みられるところである。だがこのような場合にも所有権ないし経営権を理由とする組合運動の制限は、必要最少限度のものでなければならないとされている。理実的な所有権の侵害がないのに名目的な所有権によつて団結権を制限することが許されないことはいうまでもない。労働協約における所有権と団結権行使との関係は、このような基本的立場を無視して解釈するわけにはいかない。西日本新聞社においては、労働時間内における情宣活動は長年に亘つて行われてきた。労働組合はこれを当然のことと考えてきたし、会社もこれを許容する態度をとつてきた。労働時間中における情宣活動は、組合の配慮によつて業務の運営を阻害しないように実施されていたため、会社はこのことに干渉する必要を認めていなかつたのである。「組合運動は原則として労働時間外になすものとする」という協約の文言は、このような慣行を無視して解釈することは許されない。争議中における社屋内の組合活動にしても考え方は同じである。過去何回となく行われた争議のときは、組合は当然のこととして職場内で情宣を行い、会社はそのことを禁止しようとも制限しようともしなかつた。「ただし会社は場所を指定して出入を断ることができる」という労働協約の文言もこのような過去の事実の積み重ねを無視して解釈してはならない。右のような慣行からみると、会社の発送職場における情宣活動の拒否は、明らかに従来の慣行を破棄したものといわねばならない。

(4) 紛争の責任

発送職場において、なにがしかの紛争が発生したことは事実である。しかし紛争の原因ないし実体を調べてみると、それは組合の責任というよりも、むしろ会社の責任によるものであつた。換言すれば職場情宣を行うことによる紛争ではなくて、職場情宣を止めさせようとする会社の実力行使に起因する紛争であつた。労働組合にしてみれば組合発足以来一貫して認められた職場情宣であるから、禁止するといわれたとしても、直ちにこれに応ずることができない。しかるに会社は、これに対して職制の実力によつて組合の情宣活動を鎮圧しようとはかつた。発送職場における混乱は、そのために起つたものであり、このような経過からみれば、発送職場における紛争の原因は明らかである。

(5) 発送職場における紛争とロツクアウトの関係

会社は、西労およびその組合員が会社の再三の指示警告に反して長期に亘り連日の如く会社業務を阻害する行為をなし、職場秩序を著しく乱したことは正当なる組合活動の範囲を甚しく逸脱した違法のものというべく、また、西労および組合員が発送職場の情宣をめぐり長期連続して職場秩序を紊乱した旨強調している。しかしこのようなことは、ロツクアウトの正当性との関係では、まつたく無関係であつたといわざるを得ない。なぜなら、ロツクアウトとの関係で重視しなければならないのは、発送職場における紛争が、発送職場の本来の業務遂行を妨げたかどうかである。ロツクアウトが企業防衛のための止むを得ない手段としてのみ認められるべきことを考えると、それ以外の問題は、ロツクアウトとの関係では、本質的なことではない。しかるに本件においては、発送職場において混乱が生じたとされる期間においても、新聞は毎日所定時間内に遅滞なく発送されていたのであるから、したがつて発送職場における問題は、職場秩序維持ないし暴行脅迫の有無という観点から就業規則の適用上の問題とはなり得ても、ロツクアウトの正当性とは何らのつながりもないはずのものである。ましていわんや、発送職場における本来の業務(発送作業)が所定時間内に無事に行われている以上、発送職場の局部的な紛争が全社的に行われたロツクアウトを正当づける理由となり得ないことは明らかである。もし発送職場における紛争が全社的なロツクアウトを正当化する理由となり得る場合があるとすれば、それは、発送職場における紛争のために、新聞の発送業務が不可能もしくは困難となり、ひいては全体として新聞の発行そのものに影響が及んでくるときにかぎられるというべきである。

(四)  組合切崩しの目的でなされたロツクアウト

会社のロツクアウトは、企業防衛というよりも、組合切崩しの手段として計画され、実施されたものである。それは、本件ロツクアウト実施の経過を全体として観察すれば、明らかなことである。

(五)  賃金請求権

賃金請求権との関係で西労ストを分析すると、つぎの諸点が問題となる。

(イ) 西労の要求はもともと正当であり、その斗争手段も適法正当なものであつた。

(ロ) 西労ストは会社の企業経営に対して殆んど目に見えるほどの打撃を与えておらず、まして「企業の存立」「会社存亡」などに影響を及ぼすようなものではなかつた。

(ハ) 会社は、西労に平和協定を押しつけるためにロツクアウトを強行し、継続したものであつて、それは、先制的、攻撃的なものであつて違法である。

(ニ) 会社は、西労が平和協定をのまないかぎり、ロツクアウトは解かないと言明している。西労としては平和協定をのまない自由をもつているはずであるが、その自由を放棄しない限り、会社はロツクアウトを続け、西労組合員の就労を拒否するといつている。しかもその間、会社は非組合員、三労組合員によつて平常どおり企業運営を行い、収益をあげているのであつて、かかる不合理なロツクアウトの許されるはずはない。

(ホ) 元来、こんどの西労の労働争議は新聞労連の賃金斗争の一環として組まれたものであり、春季斗争の呼び名の示す如く、夏までも秋までもつづくべき性質のものではなかつた。会社が普通の態度で対処していれば、こんな長期の斗争になるはずはなかつた。しかるに会社が、この機会に西労を崩壊させ全労働者に平和協定を押し付けようとしたことから泥沼状態に陥つたのであつて、しかも、この泥沼状態をいつ打ち切るかは、会社側のロツクアウト攻撃により、争議権をもつている労働者でなく、争議権をもたない会社ににぎられるという逆の事態になつてしまつたのである。元来、防衛的にのみ許されるロツクアウトが労働者の争議権をしばるという不当な結果になつている。

(ヘ) 会社のロツクアウトは、西労を切り崩し、崩壊させる有力な武器となつていた。むしろ西労を崩壊させる手段としてロツクアウトをかけ、賃金の支払いを打ち切り、平和協定をのませようと計つたものと見るべきであり、したがつて、これは不当労働行為を実現することを目的としたロツクアウトともなつている。本件では西労組合員が部分ストないし指名ストに入るたびに賃金を失つているのに、会社はその間も一貫して生産を続け、ストによる経済的損失をまつたく蒙つていなかつたという事実こそ、本件ロツクアウトが攻撃的なものであり、違法であつたことの証左である。

(ト) 以上のとおり、本件ロツクアウトは違法であり、したがつて、控訴人らは、会社の責に帰すべき事由によつて労務提供の履行をなし得なかつたものというべきであるから、本件ロツクアウトの期間中、控訴人らはいずれも会社に対して賃金請求権を有することは明らかである。しかして会社は昭和三九年一二月二九日にロツクアウトを解除したが、控訴人らに対し同日までの賃金の支払をなさなかつたところ、控訴人らの月額賃金は、それぞれ別紙未払賃金合計表記載のとおりであり、その支払期は毎月二三日であるから、ここに控訴人らは会社に対し右賃金の仮払いを命ずる仮処分を求めるものである。

(六)  仮処分の必要性

今日では労働争議は終結し(昭和三九年一二月二九日)、控訴人らの大部分は就労するようになつている。しかしながら、西労組合員である控訴人らは、本件ロツクアウト期間中唯一の生活源である賃金の支払いを打ち切られ、その間、労働金庫などからの借金によつて、かろうじて生活を維持してきた次第であるが、今日では右借金の返済に迫られ、その生活は、いぜんとして窮迫し、いまなお、仮処分の必要性は現存しているのである。

(七)  被控訴代理人主張の二、(四)に対する答弁

(1)については、事務折衝が行なわれていたことは認めるが、その余は争う。なお、会社は団交拒否をカムフラージユするために、事務折衝を形式的に続けていたものであり、この事務折衝のなかで、会社は一貫して、いわゆる平和協定を西労に押しつけようとしていたのである。

(2)については、つぎの(イ)ないし(ヌ)の事実は認めるが、その余は争う。

(イ) 西労が二ケ年賃金協定案を西労弾圧のための平和協定、ドレイ化協定であるとしたこと。

(ロ) 福岡市内およびその他で教宣ビラ、立て看板、ステツカー、プラカード、ニユースカーなどで組合の正当性を訴える教宣活動を行つたこと。

(ハ) 昭和三九年七月二一日新聞労連その他の支援団体の組合員の応援を得て、二一時より本社自動車出入門においてピケを張つたこと。

(ニ) 七月二三日以降会社主張の日にその主張の場所においてピケを張つたこと。

(ホ) 七月二八日、二九日、三〇日、一〇月二二日、一一月二〇日、西労組合員の一部が社内に立ち入ろうとしたこと(これは会社がロツクアウト中西労組合員に対して、食堂、診療所への出入りを不当に禁止したため、食堂、診療所の使用を必要とした組合員が、食堂、診療所に立ち入ろうとしたものである。)。

(ヘ) 八月以降共斗会議応援のもとに、西日本新聞の不買運動を開始し、「西日本新聞お断り」のステツカーを貼付したこと。

(ト) 本社々屋および窓ガラスの一部にビラを貼付したこと、そのビラに「西日本新聞社は、不当なロツクアウト、組合つぶしを直ちにやめよ」などの文句が記載されていたこと。

(チ) 会社からビラ撤去の申し入れがあり、かかる行為をしないようにとの警告を受けたこと。

(リ) 本社前に「西日本新聞お断り」の横断幕および看板を掲げたこと、およびその主張の場所に「斜長忌中」の看板、「西日本新聞社、人殺しをやめろ」の横断幕を掲げたこと。

(ヌ) その主張の期間、会社主催の各県対抗九州一周駅伝競走が行なわれたこと。

(3)については、つぎの(イ)ないし(ニ)の事実は認めるが、その余は争う。

(イ) 会社主張の場所にステツカーを貼つたこと。

(ロ) 西日本新聞不買運動を行なつたこと。

(ハ) 福岡県地方労働委員会が争議斡旋に入り、数回にわたつて事情聴取の結果、昭和三九年一二月二二日西労および会社に対し、その主張の如き斡旋案を示し、諾否の回答をするよう求めたこと。

(ニ) 会社および西労が、その主張の日に斡旋案を受諾し、西労が二九日に争議態勢を解き、その後、会社がロツクアウトを解除し、争議が妥結したこと。

(4)につきそのロツクアウト継続の正当性のないことについては、控訴人らにおいて、すでに前述してきたとおりである。

(A) 会社は、西労の二ケ年間賃金協定案に対する反対の態度は、手段と目的をとり違えたものであると主張しているが、これは控訴人らの主張を曲解したものである。西労が右協定に反対してきたのは、二年間賃金協定(平和協定)を締結することによつて、西労は、新聞労連の統一斗争にも参加できなくなり、労働者にとつて極めて重要な賃金問題について斗いを組めなくなるばかりでなく、その結果、組合の団結、斗争力が弱わまり、結局、組合は骨抜きにされ、賃金以外の問題についても斗えない状態となり、組合ならびに組合員が、ものいわぬ無権利の状態に陥し入れられる虞があるからである。それは単に賃金額の問題だけでなく、労働者の基本的権利を守るためであつた。

(B) 会社は、西労は二ケ年協定の真意に耳をかそうとせず、会社案を平和協定、ドレイ化協定であると非難し、ロツクアウト後も、争議行為や、いやがらせを行なつて、自己の主張を貫徹しようとしており、西労が誠意をもつて団交をなし、争議の収束に努める意図がまつたく存しなかつたことは明らかであると主張しているが、これは、まつたく虚構である。

(イ) 会社が、二ケ年間の平和協定を提案した真の狙いは、会社の基本的態度表明、団交の経過からもわかるように、西労を斗えない組合にしようとするところにあつた。このことは、日経連が安定賃金(平和協定)構想をその基本方針の一に掲げ、各企業にこれを締結するよう強力に指導していること、および会社が、今次平和協定を是が非でも西労にのませようとしたこと、などからも裏付けられるところである。

(ロ) 西労は、正当な争議行為、その他の組合運動を行なつたことはあるが、会社のいうように苛烈かつ、しつような争議行為や、いやがらせを行なつたことはない。

西労が、不買運動や、その他教宣ビラ配布などの活動を行なつたのは、つぎのような理由からであつた。すなわち、会社が、西労を斗えない組合にするため平和協定を提案し、これを西労にのませようとして、不当なロツクアウトを実施したので、西労は違法、不当なロツクアウトの撤回を求め、就労を要求したが、会社は頑としてこれを聞き入れず、しかも団体交渉においては、異常なまでに西労に平和協定を押しつけようとし、ロツクアウト実施後は、西労が平和協定をのまないかぎり、団交を開いても意味がないと主張して、実質上の団交は、いつさい行なわれなかつた。そこで、西労は、会社に対して違法、不当なロツクアウトをやめ、組合員を就労させ、正常な形で賃金についての交渉を行なうよう要求して、前記のような運動を行なつたものである。

(C) したがつて、会社が、事務折衝において、西労が会社案を理解するように努力し、団交を行なう素地を作ることに意をそそいだというのは、事実に反している。事務折衝において、事態が進展しなかつたのは、会社が、賃金額の交渉に入らず、西労に平和協定をしつようにのませようとし続けたからにほかならない。

二、被控訴代理人の主張

(一)  西労の賃上げ要求と会社の回答

(1) 控訴人らは、本件争議が深刻化した最大の原因は「争議の焦点が経済的な問題をこえ、団結権に直結する平和協定問題に移つた。」とか、「会社の提案した平和協定を認めることが、賃上げの額の折衝をするための前提となつた。賃上げ斗争として始まつた労働争議の焦点が平和協定という会社の提案を労働組合が承認するかどうかという異質なものに変つてきた。」と主張するが、ことの経過を直視すれば、このようなことにはならない。

まず「争議の焦点が平和協定問題に移つた。異質なものに変つた。」というが、昭和三九年三月一〇日に西労の要求が提出され、一八日に第一回労使幹事会を開催、二五日に西労から追加要求書が提出され、二七日に会社は、西労および三労に対し、非常態勢についての基本的態度を表明し、四月三日には、さらに、予算説明会を、六日には第一回労使協議会を開催し、また四月二日には社報によつて社長自ら全社員に非常時態勢を訴えるなど、会社はなみなみならぬ事態にあることをスト突入前に再三にわたつて説明し、事態を認識してもらうことに努力したのである。

したがつて争議に入つてからその焦点が移行したり、異質のものになつたことはなく、会社は、当初から二年間の臨戦態勢の説明に努めてきたのである。元来、賃金協定が一年を有効期限として締結されていることが今日の一般的すう勢であることは会社もこれを否定しない。しかし賃上げの要求、回答、ストの実施を数多く望む者にとつてはこの一年協定すら不満であろうけれども、このようなことが日常繰り返されたのでは生産、販売によつて自立していかねばならぬ企業は、他との競争に敗れて、組合とともに倒れていく。そこに一定の期間、賃金を定めておく意味があるのである。このことは組合といえども否定しうるものではないであろう。その一定期間が一年という一般的傾向はあるにしても、企業の状態によつては、二年あるいは三年間の賃金を定めておく必要がある場合のあることも否定することはできないであろう。会社は、かつて自ら平和協定という文字や言葉を使つたことはなく、会社が四月一八日に提案した賃上げ案もひとつの安定賃金であつて、その必要性については、原審以来詳述してきたところであつて、控訴人ら主張の如く、「平和協定を認めることが賃上げ額の折衝の前提となつた。」ようなことはない。

また、会社の回答が、西労の団交権、争議権を侵害するものでないことは会社と三労間の覚書(乙第一二号証の二)によつて明らかであろう。会社は、その必要から昭和三九年、四〇年の賃金を回答したのであつて、具体的に賃上げ額が示されているのであるから、会社としては、賃上げ額の交渉に入ることを当然に予期したのであるが、西労側でこれを拒否したのが実情である。もともと労使は対等の立場にあるのであるから、西労が三九年度の賃上げ要求したのに対し、会社がこれに拘束された回答をしなければならないいわれはない。問題は賃上げだから、会社が非常事態を考慮に入れて、二年間の賃上げ回答をすることは、何ら異とするに足りない。むしろ、責めらるべきは、会社の臨戦態勢に一顧すら与えず、具体的実情に沿つた解決の道を自ら閉ざし、再三にわたる会社の説明にもかかわらず、会社の回答をまたずして、新聞労連の統一斗争にのみ目を奪われ、スケジユールにしたがつて四月一一日からストに突入し、四月九日から五月二六日に至る一一回の団交においても、まつたく会社の実情に理解を示さなかつた西労だというべきであろう。

(2) 控訴人らは、日本経済新聞、読売新聞の九州進出に伴つて、九州の他の新聞社で、二年賃上げの回答を出したところはないといい、そのことによつて、あたかも、会社の二年賃上げ回答は、両新聞の九州進出を口実にした組合圧迫の「ネライ」をもつたものだとの含みをもたせようとしている。しかし、九州における他新聞はすべて県紙であつて地方色を強くだしているところから、読者層が原則として県内に特定され、それだけに一面の強味をもつているのに反し、会社は、いわゆるブロツク紙であつて、九州一円ならびに山口県を対象とする関係から、その地方一円の読者を対象とする中央紙の地方進出は、九州においては会社がもつともその影響をうけ、したがつて、直接の競争相手となり、その対抗策において、九州の他新聞と比較することのできないことは当然というべきであり、他新聞が、二年賃上げ回答をしなかつたことが、会社の回答を不合理なものとする理由とはならない。また、控訴人らは、日経、読売が他の地方にも進出しているのにもかかわらず、その地方のブロツク紙、たとえば北海道新聞や中日新聞で二年賃上げの回答をしたことのないことをもつて、会社の回答の不合理性を裏づけしようとしているのであるが、時と所を異にし、また、企業の規模にも相違があるから、一律に事を考えるほうが無理な話であつて、このことも、会社の回答を不合理なものとする根拠とはなしがたいであろう。

(二)  団体交渉などの経過ならびに西労のその間の態度

(1) 西労は、昭和三九年三月一〇日ベース・アツプ要求を提出したのであるが、一八日西労との第一回労使幹事会が開かれ、席上、西労は要求の趣旨を説明、早急に交渉を進めたい旨、および外勤手当の増額を付帯要求として早急に提出するから、あわせて交渉したい旨要望した。当時全組合員の約三分の二をもつて組織する三労からは、まだベース・アツプ要求はなされていなかつたので、会社は「三労よりの要求提出をまつて、交渉を進めたい。また、西労よりの付帯要求が提出されたならば、それをまつて会社からの質問点を整理し、再度幹事会を開きたい」旨、回答した。

(2) 会社と組合との交渉は、労働協約(乙第一号証)第四章および第五章に基づき労使幹事会、労使協議会、団体交渉の順序で進められることになつている。労使幹事会は、労使協議会の運営に関し、会社と組合の連絡にあたる一方、軽易な事項につき随時処理するためのものである。従来、ベース・アツプ、賞与要求などが提出された場合、まず労使幹事会を開いて、組合の要求の趣旨、理由を聞き、会社側の質問点につき、これをただす慣行となつている。労使協議会は、労働条件その他これに関連ある社務の運営などの重要問題を協議し、決定し、労使相互間の紛争を調整することを目的として設けられたものである。団体交渉は、前記労使協議会の段階で協議が整わない場合に開かれることになつており、労働協約においても「団体交渉は労使協議会の過程を経て行うを原則とする」旨定められている。

(3) 同日西労との幹事会が終了後三労より五、五三二円(一律三、五〇〇円、スライド二、〇三二円)の統一要求および三労共同の統一交渉を行いたい旨の申し入れを受けた。

(4) 会社は、西労の付帯要求を除いて、全組合の要求が出揃つたので、慎重に検討を開始した。しかるに、翌一九日、西労は文書で「明二〇日に労使協議会を開き、席上回答を提示されたい」との申し入れを行つた。しかし、会社は「付帯要求が出た後、再後、労使幹事会を開きたいので、明二〇日回答を出すことはできない」旨回答した。二四日には三労との第一回労使幹事会が開かれ、三労側より要求の趣旨説明が行われた。翌二五日に至り、西労は外勤手当の増額に関する付帯要求を提出し、同時に労使協議会の開催を要求したが、会社は「二七日に全組合宛にベース・アツプについての社の基本的態度を表明するから、協議会の開催はその後に行ないたい」旨回答した。

(5) 会社は二七日、全組合に対し「今後約二年間は、読売を迎えて社としては完全に臨戦態勢に入るわけで、労使関係も従来のように要求が出て交渉が続く、というような状態ではとうてい戦いには臨めない。ここ二年間は、すべての力を外に向つて発揮したい。今後のベース・アツプも従来のような額や方式を期待することは、まつたく困難なのでこの点、組合側もじゆうぶん理解してほしい。四月三日には例年の慣例にしたがい予算説明を行なえる予定なので、その後に組合の話もよく聞きたい」と今次ベース・アツプ交渉に臨む会社の基本的態度を表明し、組合の協力を要請した。

(6) 会社は四月三日、予算説明会を開き、西労および三労に対し、販売部門および製作部門の強化に伴う経費の増大により、予算編成が困難を極めた事情を説明した。

(7) 会社は四月六日、西労と第一回労使協議会を開いた。席上、西労は「賃金は社の収益や支払能力によつてきまるものではない。読売や日経の労働者と同じ仕事をしていれば同じ賃金をもらう権利がある。賃金が社の収益の中からしか出せないというのは、イデオロギーである。」と述べ、先に示した会社の基本的態度をいつさい無視したが、会社は、なお「社の態度について、もつと話合いを続けたい」旨述べて、第一回労使協議会を終えた。

しかるに西労は、八日突如「四月一一日午後五時三〇分以降、随時争議行為を行なう」旨のスト通告をなすに至つた。

(8) 会社は、西労と九日に、第一回団体交渉を行ない一一日、一五日の団体交渉を経て、一八日、三九年度二、〇一六円(基準内)、四〇年度二、一〇〇円(基準内)のベース・アツプ回答を行ない、引続き二〇日、二一日、二三日、二五日、二八日、五月一日、一三日、二六日と前後一一回にわたつて団体交渉を行なつたが、西労は、七、〇〇〇円のベース・アツプを要求して譲らず、席上、会社の担当者に対し、怒声、罵声をあびせて威嚇または個人攻撃をするなど団体交渉はまつたく進展しなかつた。

(9) 一方、三労とは、四月七日、第一回労使協議会を開き、会社の基本的態度についての意見の交換を行ない、続いて一一日、一三日、一五日、一六日の団体交渉を経て一八日西労に対すると同時に前記ベース・アツプ回答を行ない、引き続き二〇日以降五月一日まで、前後一三回にわたつて団体交渉を行ない、五月四日には新中労と、同七日には同志会、編労と何れも会社回答で妥結し、五月一三日には三労合同で調印を終り、三労との交渉は終結した。

(10) 以上のような交渉の経過の中で、西労がとつた態度は一貫して当初の七、〇〇〇円の一律要求の固持であつた。そして、会社の回答を拒否する旗印として、会社回答は平和協定であり、奴隷化協定だと西労幹部は宣伝に狂奔し、会社の置かれている立場、実情にはまつたく耳を貸そうとしなかつた。「われわれは経営者ではない。経営者が考えることを一役買つてくれといわれても、それは断わる」という西労の態度がそれを端的に示している。たしかに、経営者ではないにしても、企業内組合である以上、会社の企業の存続と発展がない限り、そこで労務を提供する組合員の経済的向上もあり得ないことに思いを至すとき、西労の態度には唖然とせざるを得ない。たしかに、労働三権は貴重なものであり、尊重さるべきであるにもせよ、これでは余りにも具体的実情に目をおおい、斗争のみに生きる不合理を感ぜざるを得ない。

斗争は手段であつて目的ではないはずである。四〇年度の統一斗争に参加できないことが、すなわち労働三権の喪失になるとはとうてい考えられない。かえつて実情によつては、二年協定が組合の向上に資することもあり得ることに思いを至すべきである。それはとにかくとして、会社は臨戦態勢の実情について、もつと話合いを続けたいと、四月七日の第一回労使協議会において述べたのに対し、翌八日には、突如スト通告を突きつけ、その後の団交においても、引続き会社は、絶えず会社の立場と実情を説明したが西労は「経営者が考えることに一役買つてくれといわれても断わる。」とか「組合に武装解除せよというのか。」とか「一律七、〇〇〇円の第二次案を早急に示せ。」とか、あるいは会社幹部の個人攻撃をするのみで、会社の実情に耳を傾けようとしなかつた。控訴人らは、会社が西労に二年協定を押しつけようとしたと主張するが、そうではなくて、会社は、あくまで会社の非常態勢を理解してもらうべく全力を傾けたのであり、だからこそ第一回労使協議会のときでも、もつと話合いを続けたいと申し入れたにもかかわらず、これに対する西労の回答は、実に翌八日のスト通告だつたのである。

(三)  本件ロツクアウトは攻撃的なものでなく防衛的なものである点について

(1) 西労ストの経過ならびに実態

これについては原判決事実摘示のとおりである(原判決一〇枚目裏一〇行目から、同一六枚目表六行目。

(2) 西労ストにより会社の蒙つた打撃

(イ) 新聞企業においては、編集より発送に至るまで、一貫した流れ作業が綿密な時間計画、人員配置に基づいて建てられた一定の作業計画にしたがつて行なわれていること、しかして新聞は報道の迅速性を最大の使命とする公器性の故に、とくに、製作部門においては、製作時間が製作能力の限界まで短縮され、したがつて、作業工程上のゆとりは、人的にも、時間的にも、まつたく存しない仕組みになつている。

(ロ) したがつて、組合が争議に突入し、スト通告がなされた場合には、会社は、平常工程を維持できなくなることは避けられない現象であつて、このため、製作工程にゆとりをもたせる目的で、締め切り時間を繰り上げたり、版を統合したり、面を通したりする措置を講ぜざるを得ない(この工程を非常工程という。)。

しかして、これらの措置を講ずれば、ニユースの報道が遅れ、また、報道内容が地域差を失なつて単調化し、紙面が低下することは必然である。したがつて、非常工程を行なうといつても、そこには自ら限界が生ずる。会社が、従前スト通告を受けた場合行ない、また、今次のスト通告により行なつた非常工程は、公器として新聞の使命を果し得る最低限の新聞製作を維持するための工程であつた。しかして、新聞製作部門における作業員の作業時間は、作業工程表に応じ、時差出勤を要する職場においては、あらかじめ全作業員に対し、一ケ月分の作業時間(出勤時間)が定められ、各作業員はこの時間表によつて時差出勤し、定められた作業に従事していること、したがつて、抜き打ち的に行なわれる指名スト、部分ストに際し、急に作業計画を変更したり、人員の作業時間を繰り代えたりすることは極めて困難であること、換言すれば、このようなストの都度、臨機応変に平常工程を非常工程に代えたり、非常工程の内容を変更したりすることは不可能なことである。このため、会社は、組合のこのような指名スト、部分ストが継続され、もしくは継続が予想される限り、平常工程に戻すことができないことも当然である。

(ハ) 控訴人らは、会社においては締め切り時間の繰り上げや版の統合は、平常時においても日常茶飯事のように行なわれていた旨主張している。しかし会社が、このような措置を講じたのは、増ページを行なう場合とか、色刷りを行なうとか、新聞の内容を充実させる場合に限つて締め切り時間を短時間(一〇分位)繰り上げたことがあつただけであつて、このような場合を除いては、とくに台風などの災害でも起らない限り、締め切り時間を繰り上げることは、平常時には存しないことである。

しかのみならず、新聞社が、多額の経費を投じて輸送力の増強に努め、あるいは製作部門において輪転機その他機械の増設を計つているのは、いつにかかつて、製作時間の短縮、輸送のスピードアツプにより、締め切り時間をぎりぎりまで遅らせ、斬新なニユースを速報せんがために他ならぬのであつて、新聞企業の競争は、締め切り時間の繰り下げ競争にあるといつても過言ではない。

(ニ) また、控訴人らは「会社の業務遂行という点で、もつとも重要視しなければならないのは、新聞紙が予定の部数だけ印刷されたか、それが所定の時間内に読者に配達されたかどうかであり、予定どおりの部数が、きちんと印刷され、所定の時間内に発送され、配達されれば、業務に支障はなかつたといえる。」と主張するが、新聞の内容を無視し一定の部数の新聞紙を一定の時間に読者に配達するだけで新聞企業が足りるのであれば、事は簡単であり、何も複雑な時間計画による作業工程表(乙第一八号証)を作る必要はないのである。新聞が、わが国のみならず、世界各国において、公器として認められていることは、公知の事実である。新聞が、社会の公器たる所以は、公衆は専ら新聞によつて事件および問題の真相を知り、これを社会生活における判断の基礎とする点にある。したがつて、新聞企業には、この新聞の公器性を維持する使命が社会的に課せられており、新聞の公共性を果たすことを第一義としなければならない点は、商業性のみを目的とする他企業とは根本的に異なる。これが新聞企業の特殊性である。この故に、新聞企業においては、公器性を犠牲にして、企業利潤の追求を計ることは許されない。新聞企業において、製作時間、輸送時間の短縮のため、巨額の投資をおしまないのは、いつにかかつて、その課された公共性の使命に応えんがためである。したがつて、締め切り時間の繰り上げや、版の統合のようなニユースの正確、迅速な報道に逆作用するような非常工程措置は、新聞の公器性を害するものであり、このような措置を四〇数日にわたつて強いられ、紙面の低下した新聞の発行を余儀なくされたことは、それ自体において、新聞企業が蒙つた打撃は極めて大きいものがあつたといわねばならない。

控訴人らの「新聞紙が一定の部数印刷され、一定の時間までに配達されれば、会社業務の阻害はない」旨の主張は、新聞の公器性およびそれによつて生ずる新聞企業の特殊性を無視したものである。

(ホ) 西労が行なつたストの一日平均延時間は、約八五時間である。西労組合員の一時間平均賃金は約一五〇円であるから、西労組合員の受けたストによる賃金カツトは一日当り一万二、〇〇〇円強に過ぎない。元来、非常工程は、作業量を相当落した製作工程であるから、計画的に人員配置、作業割を行なえば、平常工程の人員に比し、相当減員された人をもつて行ないうるものである。ところが、まつたく不安定な西労組合員の就労により、非常工程に応じた人員配置、作業割は建てられないため、無駄な賃金の支払いを余儀なくせられるのみか、いつどこで行なわれるかわからないストに備えて、各職場の職制を勤務時間外も待機させるという作業には無関係な超勤を求めざるを得なかつたため、これが手当として無用の出費を要したものであり、この積極、消極両面における会社の賃金面のロスと、前記の西労がストによつて失つた賃金面の損失を比較すれば、会社は賃金面においても著しく不均衡な損失を蒙つたのである。いわんや、会社は前記の如く非常工程を四〇数日間の長きにわたつて強いられることにより、金銭にかえ難い打撃を蒙つたのである。

すでに述べたところにより明らかであるように、新聞企業においては、企業の特殊性や、これより生ずる作業工程の特殊性よりして、予告なく行なわれる指名スト、部分ストなどの波状攻撃によつて会社の蒙る打撃は、他の企業における同種のストとは比較にならぬ程大きなものがあり、したがつて、新聞企業の労働争議においては組合側は他の企業における争議に比し、はるかに大きな指名スト、部分ストの効果を挙げ得る立場、換言すれば僅少の損失をもつて、強大な打撃を使用者に与える立場にあつたといえる。会社は、このような状況の下において四〇数日間にわたり、三二六波に及ぶ指名スト、部分ストなどの波状攻撃に耐え忍んできたのである。会社が西労ストに対抗して、ロツクアウトを行つたのは、控訴人らのいうように、単に、非常工程による新聞製作を四〇数日間強いられたことのみを理由とするものではなくこの間、西労の行つた三二六波にのぼる指名スト、部分スト、超過勤務拒否ストにより中断した作業を急遽応援要員をして受け継ぎ補充させていたが、長期間にわたるストの連続により、応援要員の精神的、肉体的疲労がその極に達し、このまま推移すれば、非常工程による最低限の新聞の製作も不可能になる非常事態に当面するに至つたが故であるが、右の事実を除外して考えても、叙上の理由により、本件ロツクアウトは四〇数日間にわたり会社がほとんど一方的に損害を蒙ることに立たされてきた争議当事者としての不均衡な劣勢を回復する争議対抗手段として正当なものであつた。

(ヘ) すでに述べたように非常工程は、会社が西労のスト突入により、これに対処するために講ぜざるを得ない工程上の非常措置であるが非常工程をとつたのみでは、ストによつて欠けた作業員の作業が直ちにカバーできるものではない。非常工程をとることと、ストによつてブランクになつたスト要員の作業を他の者をして補充せしめることとは、まつたく別問題である。しかして会社は、西労の抜き打ち的に行なわれるストの度毎に、第一次的には、その職場の職制ならびに他の作業員に超勤をさせ得るときは、これに超勤を命じてストによつて欠けた作業員の作業をカバーせしめていたが、二、三名の作業員に対する指名ストならばともかく、職場に勤務中の西労組合員全員に対する部分ストや超過勤務拒否ストに対しては、このような方法をもつては、とうてい作業をカバーすることは困難であつた。このため会社は、職制に対し勤務時間終了後も長時間、会社に待機せしめるほか、休日にも自宅待機を命じ、このようなストがかかつた場合には、これら待機中の職制をもつて作業をカバーし、辛うじて非常工程による新聞製作を維持していたのである。

(ト) しかして、西労の行なつた指名スト、部分ストなどの態様は、突然発せられるスト指令と同時にスト員は作業をやりかけのまま直ちに放棄して職場を離脱する状態であつたため、補充要員による作業の引き継ぎは作業自体を見てなすの外なく、したがつて、不慣れな他の職場の職制が作業をカバーする際は、作業の停滞をきたし、作業上のロスや時間のロスは避けがたいものがあつた。

(チ) このような状態において、西労ストが間断なく繰り返されたことにより、職制は本来の勤務のほか、多いときには一日約九時間、少ないときでも一日約一時間、平均して約二時間強の待機または作業補充のための超過勤務を四〇数日の長きにわたつて余儀なくされ、このため肉体的疲労は激しく、これに加えて、いつストがかかるかわからない不安な状態や、限られた工程時間内にストによつて中断された作業を受け継ぎ、補充せねばならぬ焦りなどよりくる精神的疲労が甚だしく、しかもいつ果てるとも知れない争議に対する不安も重なつて、ロツクアウト直前においては、職制の疲労困憊はその極に達し、このまま推移すれば非常工程による新聞製作も困難視される危機に遭遇したのである。

(リ) 前述の新聞企業の公共性にかんがみるとき、会社の内部事情により、万一新聞の発行が不能となり、不能とならないまでも、発行が遅滞する事態となれば、専ら新聞によつて事件および問題の真相を知り、社会生活における判断の基礎としている公衆に対する会社の責任はまことに重大というべく、会社の発行する新聞に対する信用は一朝にして失墜し、会社は、回復しがたい損害を蒙ることは明らかである。かかる意味において、西労の四〇数日間に及ぶ三二六波の波状ストは、まさに会社の新聞企業を危殆に瀕せしめたものであり、会社がこれに対し防衛措置を講ずる必要に迫られたことは当然のことといえる。

(ヌ) なお、控訴人らは「会社にとつてストの影響が最も大きかつたのは、西労と三労とが併行してストを行つていた時であるのに、会社は、この時にはロツクアウトを行わずに、三労との争議が妥結して、西労のみのストが行なわれるようになつた時にロツクアウトを行つたのは不合理であり、この点よりすれば、本件ロツクアウトが企業防衛のためでなく、組合切り崩しや平和協定を押しつけるための手段として行なわれたものといわざるを得ない」旨主張しているが、ロツクアウトは組合の争議行為に対する対抗手段であるから、いつどのような状況下においてロツクアウトを行なうかは、争議の状況やその他諸般の事情を考慮して、会社が決定し得るものであり、ストの最も熾烈なときにロツクアウトを行なわなければならぬものと限つたわけのものではない。まして、時間的関連からのみ見ると、早いほどロツクアウトの攻撃性が認められやすいとすると、西労と三労が併行してストを行なつていた時のロツクアウトのほうが、それから二〇日以上も経過してかけられたロツクアウトよりも、かえつて攻撃性があつたとも考えられ、これを逆に後にかけるロツクアウトを攻撃的だというのは甚しく矛盾している。

(3) 部分ストなどに関する控訴人らの主張に対して

(イ) 控訴人らは、超勤拒否は、会社と西労間においていわゆる三六協定が結ばれていないから、西労の組合員は残業の義務を負うものではなく、したがつて、超勤拒否はもともとストライキに入らない旨主張するが、しかし会社は、昭和三八年七月一日、過半数以上の従業員である八〇〇名以上を代表する伊藤弘昌との間に、時間外協定を締結し、福岡労働基準監督署に届け出でて受理されており、また昭和三九年一月一日からは、ほぼ同数を代表する伊藤との間に、同年六月末日までを期限として更新の協定を締結しているので、それと時間外労働を義務づける就業規則第三五条(乙第二号証)とを併せ考えると西労組合員に対しても当然、協定の効力は及んでいたものというべく、したがつて超勤拒否はストライキと断じなければならない。

(ロ) 控訴人らは、西労は、会社に打撃を蒙らしめることを第一義の目的としてストを行つたのではなくて、組合員に対する平和協定に関する学習や、意思統一のための集会をもつことを第一義的に考えていた旨主張するが、しかし西労の部分ストや指名ストのほとんどが、各職場の作業のピーク時を狙い、また、作業開始直後の作業に対するストの影響の最も大きい時間を狙つて行なわれていたのであり、西労が部分ストの波状攻撃により、会社の作業工程を混乱に陥れることを目的としていたことは明らかである。

(ハ) 控訴人らは「指名ストの大部分は、斗争委員が斗争委員会または団体交渉出席のため、もしくは、他の組合用務のためにストを行なつたものであり、会社が平常時には認めていた斗争委員に対する便宜供与を、斗争中はいつさい認めないという手段をとつたことに起因する。」と主張し、また「会社は自ら組合にスト指令を出させるように仕向けながら、ストによる影響を誇大にとりあげる方法をとつている。」とも主張し、これらのストを西労が行なわざるを得なかつた理由を会社の責任にしている。しかしながら、ストは昭和三九年四月八日付のスト通告によつて実施されたものであつて、会社が仕向けたというは責任回避も甚だしい。本来、組合活動は時間内においては許されないのが原則であり、ただ平常時に限つて、会社は業務に支障のない場合に限り、組合役員が特定の会合に出席することの便宜供与を行なつていたにすぎないから、スト突入後の非常態勢下において、これらの便宜供与を認めないことは、むしろ当然のことである。しかもスト突入後は、会社がこれらの便宜供与を与えないことは何も今回のストに限つたものではなく、従前より行われて来ていたものである。さらに、控訴人らは、斗争委員以外の指名ストは、組合員をして組合用務を遂行させるために行なつたものであり、また、部分ストの大部分は学習会や集団討議のために行なつた旨主張するが、西労がこのような目的で本件指名スト、部分ストを行なつたのであれば、右のストは明らかに目的において違法である。

控訴人らは、三二六波のストのうち、斗争委員ストが三分の一、要員ストが九二回、部分ストが七一回、超勤拒否ストが六三回であると主張するが、かりにそのような内訳ができるとしても、現実のストによつて、会社が著しく業務を阻害されたことは厳然たる事実であり、この事実はストの目的とは無関係に発生するものであるにかかわらず、控訴人らが、このような違法ストを自ら主張し、平然と弁解していることは、ストライキの本質に関する認識を誤つているものというのほかはない。

(ニ) 控訴人らは、西労は、ロツクアウト直前には、ストを緩和する方向をとつていたのに、会社は突如ロツクアウトをかけた旨主張しているが、しかし、五月二一日以降二七日までの間においても、従前と何ら変ることなく、指名スト、部分スト、超過勤務拒否ストが各職場において、連日行なわれていたのであつて、右事実に徴し控訴人らの主張の理由なきことは明白である。

(ホ) 控訴人らは「スト対策による職制の長期間の勤務や、疲労困憊の程度は、通常のスト対策の場合にくらべて、はるかに軽微であつた」と主張し、その根拠として、二〇〇名ないし三〇〇名の西労組合員のうちの、さらに少数の人たちの指名スト、部分ストに対して、千数百名の職制、非組合員、三労組合員がスト対策に当ることが可能であつたからであると主張する。しかし、時間的に、組織的に極めて高度に計画された流れ作業、それに対する労働力の無駄のない有機的組織づけの企業組織の中においては、たとえ少数の人員の指名スト、部分ストであつたにしても、単にその欠員を補充するをもつて足りるものではないから、その数の大小ないし加除の考え方で事が処理できるものではない。この有機的労働力の組織づけを最も有効的に破壊し、対処する者をして疲労困憊に追い込むことこそは、一斉ストではなくて、実に有機的に連けいする労働力の随時、随所の部分的加除であることは、今日企業を知るものの、何人も疑わないところである。

(ヘ) 控訴人らは「ストは前述の如く、連日、予告なくして波状的に繰り返され、しかも新聞発行行程は極めて時間的に制約された高度の流れ作業で瞬時の停滞を許されない性質のものであるため、会社はストに備えて、予め応援要員の確保に努めるとともに、常時職制を待機せしめスト実施の都度、早急に応援要員および待機職制の代替配置などの応急措置を講じたのであるが、これがため、職制は長期に亘り、長時間の勤務を余儀なくされ、かつ後記発送職場の秩序維持のため、ロツクアウト通告当時には、肉体的、精神的に極度に疲労困憊し、辛うじて非常工程を実施する状態となり、一方紙面もスト実施時における代替配置の際の停滞、混乱、代替職制の不慣れなどに因り、誤字、誤植が多くなり、漸次低下するに至つた」との会社主張に対し、「これらは、西労争議の実体を知つている者にとつては、まことに唖然たらざるを得ないことである。」旨主張し、その根拠のひとつとしてまず「ストに予告義務の定めはなく、個々のスト指令をその都度予告するなどということは、わが国の労働争議では、まつたく行なわれていないのである。」と述べる。しかし、ストによる会社の打撃の度合いをはかる上において、予告がないということが、ストの態様と相まつて、その打撃をますます大きくする要因であることは否定できない。個々のストが、予告なくして行なわれていることが、わが国の実際だからといつても、そのこととストの現実の打撃とは何らの関係もないことである。

(ト) さらに控訴人らは、前記主張の根拠として「時間的制約とか、流れ作業の特殊性という点からみると、新聞製作における時間の制限は、鉄鋼化学その他の多くの近代産業の比ではない。このことは新聞社においては、合版や原稿締め切り時間の延長という簡易な方法でストの影響に対処できることからもうかがえる」旨主張する。しかしながら、鉄鋼業その他近代企業における製造過程の時間的制約は、その時間には代替性があり、限られた時間内に作業を終えさえすれば足り、その時間が暦日上の制限を受けるものでない融通性をもつているのに比し、新聞企業においては、ニユースの速報を使命とし、かつこの故に新聞が商品価値を有するのであるから、その製作工程を制約する時間は他の時間をもつて代替することが許されないものであつて、この点、両企業が受ける時間的制約は、まつたく異質のものがある。たまたま鉄鋼業でストにより廃品化または設備の破壊が発生する場合があつても、新聞製作におけるような時間的制限、流れ作業の特殊性に基づくものではない。

前述の新聞製作そのものの特殊性から時間が重視されるのであつて、非常工程における合版や原稿の締め切り時間の繰り上げの措置は、迅速、確実な報道を生命とする新聞の製作を辛うじて維持し、同時に一歩誤れば、当然に、直ちに公器性、商品性を喪失する危険を常時冒している最低の製作措置であつて、これをストの影響に対処し得る簡易な方法という控訴人らの主張は、新聞製作にたずさわる者の言として、まことに非常識というのほかはない。また、控訴人らは、その主張の根拠として「むしろわれわれは、非常工程がロツクアウト実施中にも続けられていたことに留意しなければならない。非常工程を避けるために、ロツクアウトを実施したという会社の言い分が正しいなら、ロツクアウト実施後も非常工程をつづけていたという事実を、会社はどのように説明するのであろうか」と述べる。しかし、会社は、非常工程を避けるために、ロツクアウトを行なつたとは主張していない。会社が、ロツクアウトを実施したのは非常工程すら維持がむづかしくなつたからである。非常工程を維持して新聞を発行するのは公器としての新聞社の最少限の要請であり、非常工程を守るために実施されたロツクアウトだから、会社がロツクアウト中に非常工程を実施したのは当然のことであつて、何らの不思議はない。

(4) 発送職場における紛争、西労の違法な組合活動について

(イ) 発送職場における西労組合員の違法行為については、原判決事実摘示のとおりである(原判決一七枚目表一行目から同二一枚目裏一〇行目まで)。

(ロ) 発送職場における紛争が作業時間中における職場教宣の許否を原因として生じたものであることは会社もこれを争わない。ところで控訴人らは「発送職場においては会社は、長年にわたつて作業時間中に教宣することを認めて来たのに、今になつて一方的にこれを拒否したため紛争を生じたものであり、その責任は会社にある。」旨主張するが、会社は、今回の争議となつて初めて西労に対し、発送職場の作業時間内教宣を差止めたわけではなく、昭和三八年末のボーナス斗争の際に、発送職場の教宣は、西労のみならず三労に対しても、休憩時間に行なうよう指示したのである。しかして、会社がこのような措置をとつたのは、会社に多数の組合が出来たため、西労が行なう教宣に対し、他の組合員より教宣に対する非難の怒声が飛んだり、また、これに対して西労の組合員より教宣を励ます発言が大声でなされたりして、職場秩序を乱し、作業にも悪影響を及ぼすおそれがあること、発送部においては、作業開始後、間もなくして約四五分間の一斉休憩があり、この時間中に十分教宣を行ないうること、もともと教宣は、作業時間外に行なうのが労働協約(乙第一号証)上の原則であることなどの見地によるものであつて当然の措置であつた。

西労も会社の右措置を了承していたことは、たまたま昭和三八年の冬季ボーナス交渉妥結の際、職制のミスから、三労が作業時間内に妥結の教宣を五分間ばかりしたとき、西労がこれに対し会社に抗議している点よりして明らかであり、その後は特に教宣時間の点につき、会社西労間に別段の交渉はもたれていない。したがつて、控訴人らが「今次争議になつて、会社は西労より平和協定の実態を三労に教宣されることを恐れて、作業時間中の教宣を拒否した」などと主張することは見当違いも甚だしい。今次争議に入り、西労が再び作業時間中の教宣を固執し、会社の許可を得ず、時間中の教宣を強行したことに紛争の原因が存することは明らかである。そもそも教宣は、組合が組合員に組合事項の報告をしたり、指導教育をしたりする純然たる組合活動であるから、これが作業中である拘束時間に行なわれる根拠はどこからも出てこない。ただ新聞製作過程の特殊事情から、会社には一斉休憩の時間のない職場があるため、作業中ということから教宣をいつさい認めないというのも組合が不便を感ずるだろうとの配慮から、作業の比較的ひまな時間を見て五分ないし一〇分間の教宣を認めていた事実はある。これは、たしかに時間中の教宣ではあるが、しかし、これをとらえて発送職場における時間中の教宣を認めよというのは、実態を無視した便宜供与の強要といわねばならない。西労は、三労に対する教宣が目的だから時間中にやらせよと要求するようだけれども、休憩時間中は、三労組合員を集合させることができないにしても、他組合員に対する教宣ということは、組合の統制力の埒外の者に対するものであるから教宣とはいえない。同一企業内に多数組合が存する以上、会社はそのような組合の宣伝、工作を職場内で、しかも時間中に承認するということは、何れの組合に対しても承認するわけにはいかないのである。

西労が今次の争議に限り、発送職場においてこのような違法行為をしつように継続し、紛争を拡大せしめたのは、諸般の事情から、作業時間内の職場教宣の強要により、先に述べた指名スト、部分ストなどの波状攻撃によつて、会社の業務を阻害するほか、併せて発送職場に紛争を惹起し、引いては会社の全職場に混乱を波及せしめて、会社全体を混乱に陥れることにより、会社の正常なる業務の運営を阻害し、もつて争議を自己に有利に解決せんことを企図したものとみるべきである。

したがつて、会社が前記西労ストに対抗する手段としてのほか、西労が争議行為の一環として行なつた発送職場における職場秩序紊乱の違法行為を排除して、職場秩序の安全を確保し、企業の安全を図るため、本件ロツクアウトを行なつたのは、企業防衛上、まことにやむを得ざる処置であつたといわねばならない。

(四)  本件ロツクアウトが昭和三九年一二月二九日まで継続された事由について

(1) ロツクアウト後の交渉の経過は、原判決事実摘示のとおりであり(原判決二二枚目表四行目から同二三枚目表三行目まで)、西労のかかる態度にかかわらず、会社はロツクアウト解除までその事務折衝を続けたのである。

(2) ロツクアウト後の西労の争議状況

西労はロツクアウト後も、会社の提示した二ケ年賃金協定案を理解しようとはせず、これを西労弾圧のための「平和協定、ドレイ化協定」であるとして、あくまでこれに反対する態度を強化し、福岡市内はじめ、各地において教宣ビラ、立て看板、ステツカー、プラカード、ニユースカーなどを利用して会社の悪宣伝を行ない、職制の家族らに対するいやがらせなどを続けてきたが、七月二一日、二二日にわたり新聞労連その他支援団体の組合員約二〇〇名の応援を得て、二一時より本社自動車出入門三ケ所にピケをはり、新聞の出荷を実力をもつて阻止し、このため会社は二二日付宮崎、延岡方面行き朝刊の発送が著しく遅延したほか、社側要員に一〇数名の負傷者を出し、その他トラツクの破損を受けた。

ひき続き西労は七月二三日以降二八日、三〇日、三一日、八月五日、二〇日、一〇月二二日、一一月二〇日、二四日に多数の組合員を動員し、本社々員通用門などにおいて、スクラムを組んで横隊あるいはトンネルピケをはり、かつ、殴打する肱で突くなどの暴力を振い、実力をもつて職制、三労組合員、臨時雇など従業員の就労を妨害した。また、この間、七月二八日、二九日、三〇日、一〇月二二日、一一月二〇日には、西労組合員が会社警備員の制止を排して集団で社内に乱入する事件も発生した。

さらに、西労は八月以降共斗会議応援のもとに、西日本新聞の不買運動を開始し、各所に「西日本新聞お断わり」のステツカーを貼付し、街頭において会社を誹謗中傷するビラを配布するほか会社の販売店に対し、新聞の取り扱いを中止するよう強要し、あまつさえ購読者に対し、購読料の滞納を要求するなどの行為を行なつた。八月八日には、二宮、石橋、原田ら一〇数名の西労組合員は、深夜、岡田発送部次長宅に集団でおしかけ、これを戸外に連れだして殴る、けるの暴行により傷害を加え、また、二宮、原田ら数名の西労組合員は、同夜勤務を終え、帰宅途上の持丸発送部計数課次長を待ちぶせて、集団で同様の暴行を加え、全治一週間の負傷を負わせる不祥事が発生した。このほか西労は、会社の警告を無視し、会社施設たる本社玄関横の壁、窓ガラスなどに会社を誹謗、中傷するビラを貼付した。すなわち西労は、七月二七日ごろ、電車通り側、社屋壁面のほとんど全面にわたり「西日本新聞は、不当なロツクアウト、組合つぶしを直ちにやめよ」などの文句を記載したステツカーを貼り付け、その際、会社から撤去申し入れ、ならびに今後かかる行為をなさないよう厳重警告を受けたにもかかわらず、右申入れを無視して、これを撤去しないのみか、会社がこれを撤去することを実力をもつて阻止した。さらに一一月二〇日ふたたび電車通り側路上に設けられた会社の新聞掲示板、正面玄関柱、販売、広告局室北側の窓ガラスおよび社員通用門横に九州一周駅伝競走のために設けられた成績掲示板ならびに駅伝ゴール用アーチなどに「不当ロツクアウトをしている西日本新聞はやめましよう」などの文句を記載したステツカー数百枚を貼り付け、掲示された新聞の閲覧を不可能ならしめ、あるいは駅伝速報を妨害した。また、本社前に「西日本新聞お断り」の横断幕や立て看板多数を掲示したり、あるいは本社々屋に「斜長忌中」の看板や「西日本新聞社人殺しをやめろ」などの横断幕をかかげるなど、しつようないやがらせを続けた。さらに一一月一五日から二四日までの一〇日間にわたり、会社主催の各県対抗九州一周駅伝競走が行なわれたが、西労は、二四日の最終日には、本社前に設けられたゴール付近において、ゴール前後の一四時ごろから一五時ごろまでの間、携帯マイク、ニユースカーなどを用いて、高声で会社を誹謗する放送をつづけ、同所付近で会社が行なつていた駅伝の実況放送を妨害し、また、優勝者である福岡県渡辺選手のゴールイン(一四時四二分)の際などに、赤旗、横断幕をもつて走者を遮へいし、もつてゴールインの写真取材を妨害した。

(3) ロツクアウトの解除について

(イ) 叙上のように、会社が昭和三九年五月二八日ロツクアウトを実施して以後、西労は新聞出荷妨害、会社従業員の就労妨害、会社構内への乱入、および会社構内における坐りこみ、会社役員、役職者自宅へのいやがらせ、会社主催の九州一周駅伝競走ゴール時における取材および速報妨害、新聞掲示板、会社々屋壁面、駅伝成績掲示板など会社施設へのステツカー貼り、新聞不買運動あるいは、新聞購読料不払い運動など、いくたの違法争議行為ないしは違法行為を繰り返した。

(ロ) その間、福岡県地方労働委員会は、昭和三九年一一月二六日から、右争議の斡旋に入り、数回にわたる事情聴取の結果、一二月二二日会社および西労に対して、別紙斡旋案を提示し、二五日正午までに諾否の回答をすることを求めた。会社は二五日、西労は二七日、それぞれ右斡旋案を受諾し、西労は二九日争議態勢を解き、同時に会社はロツクアウトを解除し、ここに争議は解決するに至つた。

(4) ロツクアウト継続の正当性について

(イ) 控訴人らは「会社はロツクアウト後、組合ならびに控訴人らより毎日のように団交申し入れ、就労要求、ロツクアウト解除の要求を受けたにかかわらず、これに応じなかつた」旨主張するが、西労の二ケ年賃金協定に反対する理由が、昭和四〇年度の賃金を現在協定することは経済情勢の見通しがたてにくいことにより、不利益をもたらすというような具体的な理由によるものでなく、昭和四〇年度の賃金額がいくらになろうと、二ケ年の賃金協定をすれば、来年度の賃上げ交渉や争議が行なえなくなるから反対するという手段と目的をとり違えた見解を固執し続けていたものであり、会社が読売、日経の進出という非常事態に対処するため提案した二ケ年協定の真意には耳をかそうとせず、しかも会社内の多数組合である三労が会社の右真意を理解して会社の提案を容れ、争議を妥結した後においても、これらの事情をまつたく無視して、あくまで会社案を平和協定、ドレイ化協定であると主張してロツクアウト後も前記のような苛烈、かつ、しつような争議行為やいやがらせを行い、自己の要求を貫徹せんとする態度に鑑みると、西労が誠意をもつて団交をなし、争議の収束に努める意図はまつたく存しなかつたことは明らかであり、このような状況下において、いたずらに団交を繰り返えしても無意味であるが故に、会社は、まず労使幹事会により事務折衝を行ない西労の会社案に対する理解に努めて団交を行ない得る素地を作ることに意をそそいできたのであるが、毎週一回開かれる労使幹事会においても、西労は、いぜん従前と何ら変わる態度を示さなかつたので、事態はまつたく進展しなかつたのである。

(ロ) しかして、西労のロツクアウト後の苛烈、かつ、しつような争議状況や団交事務折衝から考えれば、西労が争議態勢を解いて、就労を請求しているものでないことは明らかであつて、正常な就労を期待することはできないのであるから、会社がロツクアウトを解除できなかつたことは当然のことである。

(ハ) 控訴人らは、本件ロツクアウトにつき、会社は二ケ年協定案を西労がのまないかぎり、何年続こうとロツクアウトを解かない旨言明したと主張するのであるが、すでに述べたとおり、ロツクアウトはもともと争議対抗手段であつて、会社が本件ロツクアウトを行なつたのも西労の会社企業の存立を危くする争議行為に対抗し、企業防衛のため行つたものであるから、西労の争議行為が終了すれば、当然解除せらるべきものであり、控訴人ら主張の如く、西労が会社の回答を受諾しないかぎり、ロツクアウトが続けられるというようなことはあり得ないのである。

(五)  控訴人のうち、別紙未払賃金合計表番号15.60.118.120.123.129.130.133.137.143.147.151.各記載の者の六月分より一一月分までの賃金が同表記載のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

第三、(疎明省略)

理由

第一、当事者、ロツクアウト、賃金増額要求の経過、西労のストおよびその影響、発送職場における紛争の諸点については、当裁判所も、左記の点を削除、訂正、附加するほか、原審と見解を同じくするものであるから、原判決の理由を引用する(原判決二五枚目表二行目から三三枚目裏一一行目まで。)。

一、原判決三一枚目裏四行目の「紙面も」の部分から同六行目の「至つた。」までの部分を削除し、この部分を「スト実施時における代置職制の不慣れ、代替配置の際の停滞混乱などにより、非常工程による新聞発行すらも困難な状態となるに至つた。」と訂正する。

二、原判決二五枚目裏一一行目の「認められる。」の次に「しかして、福岡県地方労働委員会が争議斡旋に入り、数回にわたつて事情を聴取した結果、昭和三九年一二月二二日西労および会社に対し、会社主張の如き斡旋案を示して諾否の回答を求め、会社および西労が会社主張の日に斡旋案を受諾し、同月二九日西労が争議態勢を解き、会社がロツクアウトを解除し、本件争議が妥結したことは当事者間に争いがない。」を附加する。

三、原判決二七枚目裏六行目の「二、三」の次に「および原審ならびに当審における疏明資料」を附加し、同二八枚目裏九行目の「第五六号証」の次に、「および原審ならびに当審における疏明資料」を附加し、同三一枚目裏九行目の「第八〇号証」の次に「および原審ならびに当審における疏明資料」を附加し、同三三枚目表二行目の「供述」の次に「その他原審ならびに当審における疏明資料」を附加し、同二九枚目裏三行目の「九州地区」の次に「山口県」を各附加する。

四、原判決三三枚目裏一一行目の「いうべきである。」の次に「しかして、ロツクアウトは、労使対等の原則に基づき、労働者のストライキに対応する争議手段として、使用者に是認せられた社会法上の権利であり、労働者のストライキ権と同様の社会的機能を営ましめるものと解するのが相当である。これを本件について考えると、西労の長期にわたる波状ストにより会社職制は新聞発行の非常工程の実施および発送職場の秩序維持のため疲労困憊の限界に達し、会社は業務の運営上著しい打撃を蒙り、非常工程による新聞発行すらも困難になつたこと、西労およびその組合員が発送職場の教宣をめぐり、長期連続して会社業務を阻害し、職場秩序を乱したことは、既に認定したとおりであるから、会社がこれらの事態に対処するためになした本件ロツクアウトは相当であつて直ちにもつて違法とは断じがたい。けだし労働者は、個々の労働契約(雇傭契約)に基づいて使用者に対し、労務を提供する義務を負い、これを拒否すれば、契約違反の責任を免れ得ないとするのが労働契約上の原則であるにかかわらず、労働者には団結権、団体交渉権およびその不可欠の要件としての争議権が保障せられている結果、労働者は何時でも労働条件の変更を目的として争議権を行使することが原則的に是認され、労働者が一度びこの目的のために争議行為を行なう場合には、すべての資格において労働契約上の拘束力を一方的に停止し得ることが認められているのであるから、労働者にかかる権利を是認する以上は、他方の当事者である使用者にも、また、同様の目的で労働契約上の拘束力を停止する権利(受領遅滞による責任の免責)を認めることが、衡平の原則に適うゆえんであり、労働者の側にのみかかる権利を是認し、他方の当事者である使用者の側にこれを否定するということは、市民法上の労働契約の原則からも、また、社会法上の労使対等の原則からも均衡を失するものというべきだからである。」を挿入する。

第二、一、控訴人らは、本件ロツクアウトは、西労に平和協定を押しつけ、西労を切り崩すための手段としてなされたものであつて違法である旨強調し、西労が昭和三九年三月一〇日に同年三月一日以降の賃金増額として本給一律七、〇〇〇円を要求したのに対し、会社が同年四月一八日に、昭和三九年度二、〇一六円、同四〇年度二、一〇〇円の賃上げを示すと同時に、右二年度分の賃金につき、一括して協定を締結したい旨を回答し、二年度分賃金の一括協定に力点を置いていたことは控訴人ら主張のとおりである。そして控訴人らは、右回答をとらえ、もしかかる協定をのむとすれば、単に昭和三九年度、同四〇年度の賃金額が確保されるという反面、労働者の自由と権利は失なわれ、労働者の労働条件は、なしくずしに切り下げられる虞れがあるから、ある年度の賃金額を確保することの利益以上に、労働者の団結権、団体交渉権、争議権を保障することの方がより重大であると判断し、会社の回答は、結局、労働者の権利を侵害する平和協定の押しつけであると理解してこれに反対したものであることは、原審証人小川峡一、原審ならびに当審証人福山泰蔵、当審における証人春藤博、同高尾博明の各証言、同控訴人深井建二、同森山日富各本人の供述に徴してこれを窺い得ないわけではなく、このような考え方も、また、あながち不当とは断じがたいところであろう。しかしながら、労使は対等の立場にあるのであるから、西労が昭和三九年度の賃上げ要求をしたのに対し、会社が、これに拘束された回答をなすべく義務づけられるいわれはない。元来、賃金協定は一年を有効期限とすることが通常であり、二年間あるいは三年間の賃金を協定しておくというようなことは、きわめて稀な事例ではある。しかしながら、賃上げの要求、回答、ストライキの実施という方式によつて、毎年賃上げ斗争が繰り返されたのでは、生産、販売によつて自立していかねばならぬ今日の企業は、他企業との競争に敗れ、場合によつては組合とともに倒れていかなければならぬ虞れなしとしない。したがつて、かかる自由競争の経済下において、企業が、その実態に鑑み、二年間あるいは三年間の賃金を協定しておくことが、労使双方にとつて望ましい場合のあることは、これを否定することができないことである。もつとも労働者の基本的権利を尊重すべきことは当然であり、したがつて使用者が、安定賃金の名の下に、労働者の基本的人権を永久に奪わないまでも、大幅にこれを制限するが如き協定を労働者に押しつけることの許されないことは明らかである。しかし労働者の団結権、団体交渉権、争議権といえども、他のすべての平等権、自由権、財産権、営業権など悉くの諸権利を排除し、これらの権利に絶対的優位を有することが是認されているわけではない。むしろこれら諸々の一般的諸権利との調和こそが期待されているのであつて、この調和を破らないことが争議権の正当性の限界であり、また、この限度において争議権を制限することも、必ずしも違法とは断じがたい。会社は、その置かれている実態に鑑み、昭和三九年度、同四〇年度の賃金額だけは一括して協定しておきたいというに止まるのであつて、西労が、この協定をのむとすれば、右年度の賃金額については争議権の行使が制限される結果にはなるけれども、この程度の制限は、前記見解から見るときは、直ちにもつて違法とは断じがたいものと解する。これを要するに、西労が本件二年間賃金協定を不満とし、その撤回を主張して争議行為を行なうことはその権利であり、これを違法視することは当らないことではあるが、会社の提案した二年間協定も、また同時に違法視しがたいものというべく、したがつて、本件二年間賃金協定を違法と断じ、これを前提として本件ロツクアウトを違法とする控訴人らの主張は、これを採用することができない。

控訴人らは、日経、読売の九州進出に伴なつて、二年間賃金協定を回答してきたのは、ひとり被控訴会社のみであつて、他新聞社にはみられなかつたことであり、また、かつて日経、読売が、東北、中国、北海道などに進出した場合においても、これに対抗するために二年間賃金協定を提示した新聞社の例がなかつた事実に鑑み、本件二年間賃金協定が、いわゆる平和協定であることは明白であるとも主張するが、本件二年間賃金協定が違法と断じがたいこと前記認定のとおりであるばかりでなく、当審において引用した原審挙示の疏明資料および認定の事実によると、時と所を異にし、また企業の規模、実態にもそれぞれ差異があり、会社は、その主張の如き特殊な状態に置かれていたことが窺えるから、他に二年間賃金協定を提示した新聞社の例がなかつたからといつて、本件賃金協定を目し、直ちに違法と決めつけることはできない。

二、(1) 控訴人らは、西労の行なつたストの内容は、斗争委員スト、要員スト、部分スト、超過勤務拒否などに類別されるのであるが、これは主として争議中における組合用務遂行のための要員の確保や、組合員の集団討議、意思統一のための集りをもつ必要に基づくものであつて、これは会社が、平常どおり便宜供与を認めないという非常識な態度をとつたことから余儀なくされたものであり、本来ならば、スト指令を出さなくても済むところを、会社側がスト指令を出させるように仕向けたものである。したがつて、会社が西労にストをするように仕向けながら、ストの影響を誇大にとりあげ、これに対して本件ロツクアウトを実施したのは違法である旨強調する。しかしながら、組合活動というものは、平常時においても勤務時間中には行なえないのが原則であり、ましていわんや争議中という非常体制下において、斗争委員などが、使用者に対し、便宜供与(斗争委員などが勤務時間内に特定の会合などに出席するため、職場を離れることを許容する)を権利として要求するということは、とうていこれを是認することができない。控訴人らは、会社が、普通の経営者のように西労に対して便宜供与を与えなかつたことは不当である旨主張するが、ほとんどの企業が平常時においては与えていた便宜供与を、争議中にも与えているものとは認めがたいので、本件争議中会社が西労に対し、控訴人ら主張の如き便宜供与を許容しなかつたことは当然のことというべきであり、会社において平常時には組合員に対し便宜供与を与えることが、平常時における従来の慣行であることを考慮しても、なお、会社に争議中組合員にかかる便宜供与を認容すべき義務があるものとは認めがたい。かつ本件ストライキは、西労の昭和三九年四月八日付のスト通告によつて、同月一一日から実施されているのであるから、会社が西労に対し、スト指令を出させるように仕向けたという控訴人らの主張は理由がない。

また控訴人らは、西労組合員には超過勤務の義務はないから、西労の行なつた超過勤務拒否はストライキではない。したがつて超過勤務拒否による影響は、これを問題として取り上げるべきものではない旨主張する。しかしながら、成立に争いのない疏乙第六九号証の三、四、当審証人竹間宏の証言によつて成立を認め得る疏乙第六九号証の一、二に右証言、原審証人内田敏明の証言に、当審において引用した原判決挙示の疏明資料と認定事実および弁論の全趣旨によると、会社は、昭和三八年七月一日過半数の会社従業員である八〇〇名以上を代表するものと推認される伊藤弘昌(当時三労の一つである編労の委員長)との間で、時間外協定を締結し(当時西労組合員は約三五〇名)、福岡労働基準監督署に届け出て受理されており、また昭和三九年一月一日からは、ほぼ同数を代表するものと推認される前記伊藤弘昌との間に、同年六月末日までを期限として更新の協定を結んでいることが疏明され、三労組合員のみならず西労組合員においても平常時には異議なく超過勤務に就労していたことが窺われるから、これと時間外労働を義務づける就業規則(成立に争いのない乙第二号証)第三五条の規定との関連を併せ考えるならば、西労組合員に対しても、右期間中は、当然、協定の効力は及んでいたものと解するのが相当である。けだし就業規則は、使用者が一方的に制定するものであつて、個々の労働者と個別的に折衝して制定するものではないが、しかし一度びそれが制定せられると、いわゆる法的規範として企業の成員をすべて拘束するに至るものと解すべきだからである。したがつて西労組合員といえども、超過勤務を拒否することは、ストライキといわなければならない。

(2) 控訴人らは、西労のストは、会社において過去何回となく行なわれてきたものと同じ方法であり、また、三労の行なつたストの方法とも変りなく、そのやり方も争議の予告義務を負つていない他の多くの民間労組(新聞労連を含む)のストとまつたく同じ方法であつたのであるが、会社は、これまでロツクアウトをかけたことがなかつたと主張する。そしてなるほど会社においては過去何回となくストが行なわれていたが、これまでロツクアウトがかけられたことがなかつたことは弁論の全趣旨に徴してこれを窺うにかたくはないけれども、原審証人後藤安夫、当審証人竹林渉の証言に弁論の全趣旨を総合すると、これまでのストライキは長くとも二週間で終つており、今回のように四〇数日という長期間にわたるものではなかつたことが認められるから、過去におけるストライキに対して会社が、ロツクアウトをかけたことがなかつたからといつて、直ちに本件ロツクアウトを違法と決めつけることはできない。

(3) 控訴人らは、西労のストは、決して会社が主張するような混乱を会社に与えたものではなかつたとし、それは会社が、他の企業とくらべて比較にならぬほど数多くの非組合員をようしていたからであり、組合員だけをとつてみても西労は三労にくらべて、はるかに少数を占めるに過ぎず、したがつて西労組合員の一部がストに入つても、他の非組合員や三労組合員によつて穴うめされる仕組になつており、会社のスト対策は、他企業のスト対策に比較してきわめて容易であつたからである。また西労のストは会社に打撃を与えることを第一義的な目的としていなかつたから、他組合員の就労をピケで阻止するようなことはしなかつた。西労ストにもかかわらず会社の新聞発行が支障なく行なわれていたという事実こそ、会社が、西労ストによつて何ら業務上の支障を蒙らなかつたことの証左であり、それにもかかわらず会社は、本件ロツクアウトを実施したのであつてそれは違法であると強調する。しかしながら、会社が、西労ストによつて業務の運営上著しい影響を蒙つたことは、当審において引用した原判決理由認定のとおりであるばかりでなく、原判決挙示の疏明資料および認定事実、成立に争いのない乙第七〇号証、当審証人竹林渉、同古川正雄の各証言によると、西労のストが作業のピーク時や、作業開始直後のストにより作業の混乱する時期に行なわれ、また短時間のストを反覆するというような方法でなされたことが疏明され、一方西労ストの一日平均延時間は、約八五時間であり、西労組合員の一時間平均賃金は約一五〇円であることが窺われるから、西労組合員のストによる賃金カツトは、一日平均一万二、〇〇〇円強であるにかかわらず、会社は、西労ストにより西労組合員の就労がまつたく予測し得ないために、予め非常工程に応じた人員配置や作業計画をたてることができず、いつどこで行なわれるか予測しがたいストに備えて各職場の職制などを時間外も常時待機せしめるという措置を講ぜざるをえず、これがため、無用の出費を余儀なくされたのみか、新聞企業の特殊性であるニユースの速報性、地域性すら失なわせるような非常工程によつて辛うじて新聞製作を維持するほかはなかつたことが疏明されるのである。

また控訴人らは、締め切り時間の繰り上げや合版などの非常措置は、その名に似ず、会社においては、平常時においても日常茶飯事の如く行なわれていたものであり、したがつて非常工程を避けるためにロツクアウトを行なつたという会社の主張はそれ自体が矛盾していると主張する。しかしながら原審証人加藤稲穂、同後藤安夫の証言、成立に争いのない乙第六八号証に弁論の全趣旨を総合すると、会社においては、その主張のとおり、増ページとか色刷りを行なうような新聞の内容を充実させる場合などに締め切り時間を一〇分位繰り上げることがあるだけであつて、かかる場合を除いては、台風などの災害でも起らない限り、非常工程の措置を講ずることがなかつたばかりでなく、新聞企業の競争は、できるだけ斬新なニユースを速報せんがため、締め切り時間の繰り下げ競争にあることが疏明され、また会社は、非常工程を避けるためにロツクアウトを行なつたとは主張しておらず、したがつてロツクアウト中に会社が非常工程による新聞発行を維持したからといつて、本件ロツクアウトの正当性を否定することはできない。

控訴人らは、西労ストによつて会社が、前記認定の如き打撃を蒙つたことはあり得ないとし、その根拠として、控訴人ら代理人主張一、(二)(3)の(イ)ないし(チ)記載の如く主張する。しかしながら、その主張の採用しがたいことは、前記認定にかかる諸般の事実に徴して自ら明らかであり、被控訴代理人主張二、(三)(3)の(ホ)(ヘ)(ト)および(4)の(ロ)記載のとおりである。

(4) 控訴人らは、西労ストにもかかわらず、会社の新聞紙が予定の部数だけ印刷され、それが所定の時間内に読者に配達されている以上は、営利会社である会社には、経済的損失はなかつたというべきであり、したがつて本件ロツクアウトは違法である旨強調するが、しかし西労ストによつて会社が、業務の運営上著しい打撃を蒙つたことは前記認定のとおりであり、単に新聞紙が予定の部数だけ印刷され、それが所定の時間内に読者に配達されたからといつて、直ちにもつて会社に経済的損失がなかつたものとは断じがたい。

(5) 控訴人らは、昭和三九年四月二一日から五月六日までは、西労のほか、三労もストライキを行なつており、三労のストは西労のストのそれよりも大きいぐらいであつたにもかかわらず、会社は、その間ロツクアウトを行なおうとはせず、三労がストを中止し、会社への打撃が緩和されたはずの時期になつて、西労だけに対し、本件ロツクアウトを実施したものであつて、その真意が西労の弾圧に在つたことは明白である旨主張する。しかしながら、当審において引用した原判決挙示の疏明資料および認定事実によると、三労は、昭和三九年四月二一日以降同年五月六日頃まで、同月五日を除き全職場を通じてのスト三回を含め、二三波の指名スト、部分ストを行なつたに過ぎず、そのうち二三波の部分ストは予告されていたのに対し、西労は、合計三二六波、参加人員一、九八八名、延時間四、一五〇時間(超勤拒否は延時間より除く)にも及ぶ指名スト、部分スト、超勤拒否ストを行ない、また三労がストを行なつていない職場においても部分ストをかけていることが認められ、しかも前記認定のとおり作業のピーク時や作業開始直後のストにより作業の混乱する時期に行なわれていたという事実に徴して考えれば、会社が、三労が西労と併行してストライキを行なつていた時期に、ロツクアウトをかけなかつたとしても、別段不合理であつたとも断じがたく、またロツクアウトが元来労働者の争議行為の対抗手段として使用者に是認されたものであり、ストライキ権と同様の社会的機能を営ましめるものである以上は、いつ、ロツクアウトを行なうかは、争議の状況などを考慮して使用者が決定し得るところと解すべきであるから、本件ロツクアウトを目し、直ちに違法であると決めつけるわけにはいかない。

(6) 控訴人らは、西労はロツクアウト直前のころは、漸次、ストを緩和する方向をとつていたのに、会社は、あたかも西労を全面ストに追込むかの如くロツクアウトをかけたものであつて違法である旨主張するが、これに添う原審ならびに当審における郡島恒昭、当審における森山日富各本人の供述は、当審において引用した原判決挙示の疏明資料および認定事実によつて認められる、西労は、本件ロツクアウトが実施せられた昭和三九年五月二八日の前日まで、従前と何ら変ることなく、指名スト、部分スト、超過勤務拒否ストを各職場において連日行なつていた事実に徴して真実とは認めがたく、他に控訴人らの前記主張を肯認するに足る疏明資料はない。

三、控訴人らは、発送職場における勤務時間内教宣は、長年に亘つて行なわれてきた西労の既得権であり、この関係では労働協約は空文である。発送職場における紛争は、会社が、かかる教宣を拒否したことに因つて生じたものであつて、それは会社の責任である。発送職場における時間内教宣は組合の配慮によつて業務の運営を阻害しないように実施されており、会社主張の如き職場混乱の事実はない。また発送職場における教宣によつて本来の業務(発送作業)が遅滞し、新聞の発送業務が不可能もしくは困難となつたような事実はない。したがつて発送職場における紛争は、本件ロツクアウトの正当性を理由づける根拠とはなしがたい旨強調する。

しかしながら、当審において引用した原判決挙示の疏明資料および認定事実と当審証人内田敏明の証言および弁論の全趣旨によると、会社主張二(三)(4)の(ロ)記載のとおりの事実を認めるに充分であり、これによれば、勤務時間中の教宣が既得権であるとか、発送職場における紛争が、同職場における教宣を拒否した会社の責任であるとか、西労の発送職場における勤務時間内教宣によつて職場秩序が混乱した事実がないことなどを理由とし、本件ロツクアウトを違法と決めつける前記控訴人らの主張は採用することができない。

第三、一、控訴人らは、ロツクアウトというものは、元来ストライキによつて企業が危殆に瀕するに至つたとき、はじめてこれを防衛するためにのみ、使用者に認められるという見解をとつているようであり、ロツクアウトの意義、本質については、見解の岐れるところではある。しかしながら、それは、前記した如く、労働者は労働契約(雇傭契約)に基づいて使用者に対し、労務を提供する義務を負い、これを拒否すれば契約違反の責任を免れ得ないとするのが労働契約上の原則であるにかかわらず、労働者には団結権、団体交渉権、争議権が保障せられている結果、労働者は何時でも労働条件の変更を目的として争議権を行使することが原則的に是認され、労働者が一度びこの目的のために争議行為を行なう場合には、すべての資格において労働契約上の拘束力を一方的に停止し得ることが認められているのであるから、労働者にかかる権利を是認する以上は、他方の当事者である使用者にも、これに対抗して同様の目的の下に労働契約上の拘束力を停止する権利(受領遅滞による責任の免責)を認めることが市民法の上からも、また社会法の原則からも衡平の理念に適うゆえんであるというところから是認せられたものであることに鑑みれば、ロツクアウトは、労働者がその主張貫徹のために行なうストライキに対応して、使用者が労働力の受領を拒否し、賃金支払義務を免れるため、使用者に是認せられた社会法上の権利であり、労働者のストライキ権と同様の社会的機能を営ましめるものと解するのが相当である。そうすれば西労ストの結果、会社は業務運営上著しい打撃を蒙り、非常工程による新聞発行すらも困難になつたことは前認定のとおりであるから、たとえ会社の新聞発行自体が不可能となり、または会社企業の存続が危殆に瀕する事態にまではたち至らなかつたとしても、直ちにもつて本件ロツクアウトをとらえ違法とは断じがたい。もつとも、ロツクアウト権の濫用が許されないことは当然のことであるけれども、前記認定にかかる諸般の状況下において実施された本件ロツクアウトをとらえ、攻撃的ロツクアウトであるとか権利の濫用であるとは断じがたい。

二、控訴人らは、本件ロツクアウトは、これによつて労働者が賃金請求権を失ない生活に困窮しているにかかわらず、会社は、いぜんとして操業(新聞発行)を継続し、営業利潤をあげているのであるが、これは明らかに不合理である旨主張する。しかしながら、労働争議は、労働市場を背景とし経済力を露わにした斗争であるから、協約などに特別の定めがない限り、労働者がロツクアウト中に他から収入を得ることが何ら差しつかえないと同じように、使用者も、またストライキに参加している者またはロツクアウトされた者に代わる代置労働者によつて操業を継続することはその自由である、というべく、会社が、ロツクアウト中に操業を継続したことは、これをもつてロツクアウトの正当性を否定すべき理由とはなしがたい。しかも三労組合員などは、西労の統制外に置かれているのであるから、会社が、これら三労組合員をして操業を続けることは、何ら差しつかえがなく、もし控訴人らの主張を是認するとすれば、会社は、ストライキを行なつていない三労組合員の就業をも拒否しなければならないという不合理な結果となるであろう。また一部スト、指名ストなどの場合に、全面ロツクアウトをなし得るかという点についても、その部分スト、指名ストなどが組合の決定に基づくものであり、組合の争議戦術として行なわれるものである以上は、全組合員に対するロツクアウトもまた必ずしもこれを違法ならしめるものではない。もつとも当審における控訴人森山日富の供述によれば、会社は、西労組合員に対して食堂、診療所に立入ることすら禁止していたことが認められるのであるが、しかし組合員は、ロツクアウトによつて従業員たる地位を失うものではないから、特段の事情のない限り、会社の福祉厚生施設の利用を不可能ならしめるかの如きロツクアウトは、その限りでは明かに行き過ぎであるといわざるを得ないけれども、これがため本件ロツクアウトそのものが全体として違法になるわけではないものと解する。

三、控訴人らは、本件ロツクアウトを境として西労組合員の脱退者が急激に増加しているのであるが、これこそ、本件ロツクアウトが西労を切り崩すための手段であることの証左であり不当労働行為である旨強調する。しかしながら、ストライキというものは、労働者が労働力を売り止めすることによつて使用者に対し、経済的、心理的な影響を与え、もつて労働力がいかに高価であるかを思い知らせるものであり、ロツクアウトは、これらのストライキに対抗して使用者が労働力の受領を拒否し、合法的に賃金支払義務を免れるために使用者に是認された権利であり、ストライキと同様の社会的機能を営ましめるものである以上は、ロツクアウトによつて組合員が賃金請求権を失うことによつて生活に困窮し、また組合の団結に心理的影響を及ぼしたからといつても、それはけだしやむを得ないことというべきである。

第四、しかして本件ロツクアウトが必ずしも違法と断じがたいことは前記したとおりであり、かつ組合からストライキの解除、就労の申入れがあつたとしても、ストライキの中止、平常業務の開始、団交による平和解決の見とおしのない場合には、正当に開始されたロツクアウトが違法となるものとは解しがたく、本件ロツクアウト継続が不当でないとする点は、当裁判所も原審と見解を同じくするものであるから、次の点を削除、訂正、附加するほか、原判決の理由(原判決三五枚目裏一一行目から同三六枚目裏一行目まで)を引用する。

原判決三五枚目裏一一行目の「現在尚」の部分を削除し、これを「昭和三九年一二月二九日まで」と訂正し、同三六枚目表一一行目の「される。」の次に「原審ならびに当審における疏明資料中叙上認定に反する部分は措信しがたい。」を附加し、同三六枚目表末行の「現在まで」の部分を削除し、これを「昭和三九年一二月二九日の争議妥結に至るまで」と訂正し、同三六枚目裏一行目の「する」の部分を削除し、これを「していた」と訂正する。

第五、しかるときは、本件ロツクアウトおよびその解除時に至るまでの継続が違法であることを前提とする控訴人らの本件申請は爾余の判断をまたず失当であり、これを却下した原判決は正当であつて本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条、第九三条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎光次 入江啓七郎 小川宜夫)

(別紙省略)

〔参考資料〕

仮処分申請事件

(福岡地方昭和三九年(ヨ)第三三六号 昭和三九年一二月一八日判決)

申請人 森山日富外一五三名

被申請人 株式会社西日本新聞社

主文

申請人らの申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申請人ら代理人は「被申請人は申請人らに対し、別紙未払賃金表合計欄記載の金員および昭和三九年八月以降毎月末日までに同表六月分欄記載の金額と同額の金員を仮に支払え。申請費用は被申請人の負担とする。」との判決を、被申請人代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、申請人らの申請の理由および被申請人の主張事実に対する答弁

一、当事者

被申請人会社(以下単に会社という)は、日刊新聞の発行を業とする株式会社である。

申請人らは会社の従業員であり、会社従業員で組織している西日本新聞労働組合(以下単に西労という)の組合員である。

なお、会社には西労のほか、西日本新聞新中央労働組合(組合員数約一八六名、以下新中労という)、西日本新聞編集労働組合(組合員数約一三八名、以下単に編労という)、および西日本新聞労働者同志会(組合員数約三〇一名、以下単に同志会という)の三組合がある。

二、会社の西労に対するロツクアウト

会社は西労に対し昭和三九年五月二八日午前七時ロツクアウトを通告し、会社正面玄関その他の通用門に施錠をなしバリケードを築き、同日以後申請人ら西労組合員の会社構内への立入を禁止した。

三、ロツクアウトの違法性

右ロツクアウトは正当性の限度をこえた違法のものである。

(一)、ロツクアウトにいたる経過

西労は会社に対し昭和三九年三月一〇日、一率金七、〇〇〇円賃金増額、労働時間短縮などの要求をなし団体交渉の申し入れをした。

会社は、西労の再三にわたる団体交渉要求に応じないのみならず、同月二七日「読売新聞社、日本経済新聞社が九州に販売網を拡張してくるのにともない以後二年間は、会社とこれら新聞社との間に企業の存立をかけた激戦が予想され、会社としては労使一体となつて対処しなければならない、従つて組合の会社に対する賃金増額要求の提出、労使間の交渉、組合のスト権行使という経過に従つてなされていた従来の賃金増額においてとられた形式を一掃し労使一体となつて総ての力を外に向けて発揮したい」旨の所謂基本的構想なるものを説明し、次で同年四月六日の労使協議会において会社の基本的構想に協力してもらうことが賃上げの前提条件であると主張して譲らなかつた。このように会社は組合の要求を全然考慮しないのみならず、その態度は所謂平和協定に直結し、組合の団体交渉権、争議権の行使を禁止しようとするものである。しかもこの儘では西労は会社の不当な要求を押しつけられて仕舞う結果になるので同年四月八日やむをえず会社に対し同月一一日からストを行う旨文書で通告した。このように組合のスト通告は会社の平和協定の押しつけをはねのけるための防衛的なものであつた。又西労の取つた闘争戦術は時限スト指名スト即ち特定職場の特定組合員を時間を限つてストに入れるという柔軟なもので、全職場を通じて一日に一人ないし三人、多い時で一〇人という程度のものであり、しかもこのストは通常の夫れとは異りいわば団交要員及び組合要務員確保のために取られた止むを得ない戦術であつた。

西労はスト通告後も殆んど連日のように会社に対し団交の申し入れをしたが、会社は依然としてこれを拒否し続け、同月一八日になつて漸く西労に対し、昭和三九年度は一人平均金二、〇一六円、同四〇年度は一人平均金二、一〇〇円の賃上げ案を提示したが、会社は若し西労が同四〇年度分につき拒否した場合には同三九年度分を含めて賃上げは一切行なわない態度を示し、又その後の団交でこの二年間の賃金協定案は絶対に変更しない旨を繰返し主張し同四〇年度分の賃金を固定化し同年度分賃金に関する西労のスト権行使を禁止しようとして譲らず、会社、西労間の団体交渉は全く進展しなかつた。かくて西労の闘争目標は本来の賃金引上げその他の要求より平和協定反対の方向に重点が移行する状態となつたが、このとき会社は前記のように、ロツクアウトを通告したものである。

(二)、ロツクアウトの違法性

ロツクアウトは元来労働者の争議行為に対抗するため使用者に企業防衛上必要やむをえない限度で容認されている使用者の争議対抗手段であり、使用者が自己の要求を貫徹するための戦術として認められたものではない。従つてその限度を超え、企業防衛上必要がないのに為されたり、攻撃的性格を帯びたり、労働者の団結権、争議権、生存権を破壊するようなロツクアウトは違法である。本件において会社は西労に対しロツクアウトをなさなければならない急迫した事情は何等存在しない。会社がロツクアウトを実施した目的は西労組合員のみに就労を拒否し、組合員を経済的困窮に陥れることによつて組合の潰滅を計り、以て所謂平和協定を無理にでも組合に押しつけようとするものである。会社はその後申請人らの殆んど連日に亘るロツクアウトの解除要求ならびに就労申し入れおよび団体交渉の申し入れにも応ぜず、申請人ら以外の従業員によつて会社業務を遂行し、現在に至るまでロツクアウトを解除せず、しかも益々悪質な方法で組合の切崩しに狂奔している状態である。してみれば本件ロツクアウトは攻撃的ロツクアウトであり、申請人ら労働者の団結権、争議権、生存権を破壊する違法のものである。

四、賃金請求権

申請人らは本件ロツクアウト後引続き会社に対し就労を申入れているにもかかわらず会社はロツクアウトを理由としてこれを拒否している。然るに本件ロツクアウトは前述の如く違法なものである。従つて申請人らは会社の責に帰すべき事由によつて労務提供の履行をなしえなくなつたものであるから、本件ロツクアウトの期間中申請人らはいずれも会社に対して賃金請求権を有する。

申請人らの月額賃金はそれぞれ別紙未払賃金表六月分記載のとおりであり、その支払期は毎月二三日であるが、会社は申請人らに対しいずれも同表記載のとおり昭和三九年五月分の一部および同年六月分以降の賃金の支払をしない。

五、仮処分の必要性

会社は将来ロツクアウトが継続している間は賃金を支払う意思のないことを明言しているので、申請人らは会社に対し右未払賃金支払請求の本訴を提起すべく準備中であるが、申請人らは会社から受ける賃金のみで生活をしている労働者であり、本件ロツクアウト以来収入を断たれていずれも生活は困窮し、右本案の判決をまつていては回復することのできない損害を蒙るおそれがある。

よつて、右本案判決確定にいたるまで既に支払期の到来せる前記昭和三九年五月分の未払賃金および同年六月以降一〇月分までの前記月額賃金の仮払い並びに同年一一月以降申請人らを就労させるまで毎月末日右月額賃金の仮払いを命ずる仮処分を求める。

六、被申請人の主張事実に対する答弁

被申請人主張事実中、二(一)(1)の事実中、会社側の回答の部分を除くその余の事実、同(2)の事実中、会社が主張の日予算説明会を開き主張のような事情を説明したこと、同(3)、(4)の事実、同(5)の事実中、主張の日に第一回労使協議会が開催され、その後主張の各日に団交が行なわれたこと、同(6)の事実中、会社・三労間に交渉が妥結したこと、二(二)(2)の事実中、新聞が被申請人主張の工程によつて製作発送されること、二(三)(3)の事実中、会社が昭和三九年四月一四日西労組合員の発送職場への立入を禁止したこと、同年五月一五日発送職場入口に扉を設置し主張のように立入を禁止したこと、同(4)の事実中、被申請人が主張のごとき警告書を発したことはいずれもこれを認めるが、その余の事実は申請人らの主張に符合する部分を除き争う。

第三、被申請人の答弁

一、申請人ら主張一の事実中各組合における所属組合員数を除くその余の事実は認める。昭和三九年九月一五日現在における会社従業員の組合別所属数は西労一六七名、新中労一八一名、編労一五二名、同志会三三三名、組合に所属しない者一四八名である。同二の事実中会社が会社通用門に施錠をなしバリケードを築いたことを否認し、その他の事実は認める。但し会社がロツクアウトを実施したのは主たる事業場である本社についてのみである。同三(一)の事実中、西労が会社に対し申請人ら主張の日に主張のごとき賃金増額要求をなしたこと、会社が主張の日西労に対し主張のような会社の基本的構想を説明したこと、西労が会社に対し申請人ら主張の日に主張のごとくストを行なう旨通告したこと、西労の取つた闘争戦術の一部が時限スト、指名ストであつたこと、会社が西労に対し申請人ら主張の日に主張のごとき賃上げ案を提示し、その後の団交(同年四月二〇日の団交)で二年間の賃金協定案は変更しないと述べたことは認めるが、その余の事実は否認する。同三(二)の事実中西労がロツクアウト実施後団交を申し入れ、ロツクアウトの解除を要求したこと、会社が今日までロツクアウトを解除していないことは認めるが、その余の事実は否認する。同四の事実中会社が申請人らに対しロツクアウト以後の賃金を支払つていないこと、申請人西田友好、同稲葉満州男、同中山洵、同石崎憲司、同坂井美彦、同斉藤裕也、同白水義悌、同平山元、同野田譲、同菅原成助、同品川一二美の昭和三九年六、七月分賃金がそれぞれ申請人ら主張のとおりの金額であることはいずれもこれを認めるが、その余の事実は全部否認する。同五の事実は否認する。

二、ロツクアウト通告の理由およびその正当性

本件ロツクアウトは適法であり、その理由は次のとおりである。

(一)、賃金増額要求交渉の経過

(1)、会社は西労から、昭和三九年三月一〇日西労組合員である会社従業員について、同年度一律本給金七、〇〇〇円の賃金増額の要求をうけた。同月一八日西労との第一回労使幹事会が開かれ、西労は早急に交渉を進めたき旨を要望し、外勤手当の増額を附帯要求として至急提出すべきことを述べ、これに対し会社は、未だ三労(他の三組合の一括呼称である)から賃上げ要求が提出されていなかつたので、三労の要求提出をまつて交渉を進めたいこと及び西労の附帯要求については再度幹事会を開催したい旨を回答した。

(2)、ところが、当時既に日本経済新聞社、読売新聞社の両社が同年秋から九州に進出することを決定し、着々その準備を進めていたため、ここ二年間を頂点とする西日本地域における新聞界の販売戦は未曾有の激戦が予想されていた。会社がこの販売戦に勝つためには、販売部門では販売店の増設、拡充、製作部門では紙面の質的向上、新聞発行の迅速化、輪転機の増設などの抜本的施策が必要であり、これらの施策実施のためには、少くとも今後二年間の資金計画を前提とした予算編成をなさざるをえなくなり、加えて経費の膨脹などから前記施策に直接関係のない各種経費を大幅に削減し、辛うじて新予算の編成を見たのである。このため賃金増額については従前の実績によることは少くとも昭和三九年度および次年度においては到底不可能な状況であつた。

そこで会社は同月二七日全組合に対し「今後約二年間は、読売を迎えて社としては完全に臨戦体制に入るわけで、労使関係も従来のように要求が出て交渉が続くというような状態では到底戦には臨めない。ここ二年間はすべての力を外に向つて発揮したい。今後のベースアツプも従来のような額や方式を期待することは全く困難なので、この点組合側も充分理解して欲しい。四月三日には例年の慣例に従い予算説明を行なえる予定であるから、その後に組合の話もよく聞きたい。」と今次のベースアツプ交渉に臨む会社の基本的態度を表明して、組合の協力を求め次で同年四月三日予算説明会を開き、西労、三労に対し販売部門、製作部門の強化に伴う経費の増大により予算編成が困難を極めた事情を説明した。

(3)、同月一八日三労は金五、五三二円(一律三、五〇〇円、スライド二、〇三二円)の賃上げ要求を提出し、同月二五日西労は外勤手当の増額に関する附帯要求を提出した。

(4)、会社と組合の交渉は、労働協約第四、五章に基づき労使幹事会、労使協議会、団体交渉の順序で進められることになつている。労使幹事会は、労使協議会の運営に関し会社と組合の連絡にあたる一方軽易な事項につき随時処理するためのものであり、従来、賃金増額要求が提出された場合には、会社はまず、労使幹事会で組合の要求趣旨、理由を聞き疑問点をただす慣行となつている。労使協議会は、労働条件その他これに関連ある社務の運営などの重要問題を協議決定し、労使相互間の紛争を調整することを目的として設けられたものである。団体交渉は労使協議会の段階で協議が整わなかつた場合に開かれることになつており、労働協約にも団体交渉は労使協議会の過程を経て行なうを原則とする旨を定めている。

(5)、会社は同年四月六日西労と第一回労使協議会を開いたが、席上西労は「賃金は社の収益や支払能力によつて決るものではない」と述べて、会社の基本的態度を一切無視したが、会社は尚社の態度につき話合を続けたいと述べて右協議会を終つた。ところが、西労は突如同月八日会社に対し同月一一日以降随時争議行為を行なう旨のスト通告を為すに至つた。

その後会社は西労と同月九日第一回団交を行ない、次で同月一一、一五日の団交を経て同月一八日申請人ら主張の如き賃金増額の回答をなし、引続き同月二〇、二一、二三、二五、二八日同年五月一、一三、二六日と前後一一回にわたつて団体交渉を行なつたが、西労は前記金七、〇〇〇円の賃金増額を要求して譲らず、団体交渉は進展しなかつた。

(6)、一方会社は三労と同年四月七日第一回労使協議会を開催し、爾後四回の団体交渉を経て同月一八日前記西労に対すると同様の賃金増額の回答をなし、引続き団体交渉を重ね、結局前後一三回にわたる団体交渉の結果同年五月四日に新中労と、同月七日に同志会、編労といずれも会社回答の額で交渉を妥結し、同月一三日三労合同で調印を終つた。

(二)、西労のストとその影響

(1)、西労は同年四月一一日以降会社がロツクアウトをなした同年五月二八日にいたる四七日間、左記のように、延三二六波、参加延人員一、九八八名、延時間四、一五〇時間(超勤拒否は延時間より除く)におよぶ本社全面スト、指名、時限、部分各スト、超勤拒否のストを随時随所に間断なく、しかも職場放棄及び解除の何れの場合も何等の予告なしに繰り返した。

四月一一日(日付は必ずしも暦日とは一致せず、同日二一時始業、翌一二日五時終業の場合、同日五時までの時間も一一日に含める。以下同旨。)は、一七時三〇分から営業総務分会(広告局、販売局、総務局)工務分会(工務局)編集分会(編集局)などの各分会正副委員長、書記および発送部、工務第一班、写真製版部、活版第一、二部、印刷部などの各職場正副議長および就業中の整理部、校閲部、発送部、活版第一部二名、印刷部の本部闘争委員、広告第一部、印刷部二名の最高闘争委員が指名ストによつて一斉に職場を放棄し、一九時からは就業中の鋳造課員一名に対し指名ストがかけられた。

同月一二日は、九時から就業中の活版第一部の本部闘争委員一名に、一五時三〇分を期して就業中の整理部、校閲部、発送部、活版第一部、写真製版部、印刷部の本部闘争委員六名に対し、ついで、二二時三〇分からは、就業中の校閲部、発送部の本部闘争委員二名に対し、各指名ストが、一時以降発送部員に対し超勤拒否のスト(該当者一名)がかけられた。

同月一三日は、一五時三〇分以降就業中の校閲部、発送部二名、技術部、写真製版部、印刷部の本部闘争委員六名に対し指名スト、二〇時五〇分以降活版第一、二部の一四名に対し超勤拒否のスト、二一時から発送部の本部闘争委員一名に対し指名スト、一時四五分発送部員に対し超勤拒否のスト(該当者一名)がかけられた。

同月一四日は、延一二(四)名、延六四時間、(括弧内数字は前からのスト継続者を外数で示す。以下同旨。)

同月一五日は、延六三(二)名、延一〇一時間、

同月一六日は、延五五(四)名、延八六時間、

同月一七日は、延二四(五)名、延六一時間、

同月一八日は、延二五(五)名、延六一時間、

同月一九日は、延八(二)名、延三四時間、

同月二〇日は、九時三〇分から鋳造課員一名に対し、一〇時から社会部の本部闘争委員一名に対し、一二時一五分から活版第一部の本部闘争委員一名に対し、一五時からは整理部、発送部二名、技術部、活版第一部、写真製版部の本部闘争委員六名に対し、一九時からは編集局地方部員三名、スポーツ新聞編集部、校閲部、連絡部、社会部、文化部員八名に対し、二一時から発送部員一名に対し各指名ストを、二〇時五〇分以降活版第一、二部の一九名に対し超勤拒否のストを、二一時三〇分以降活版第一、二部の一七名に対し部分ストを、二三時以降発送部員四名に対し超勤拒否のストをそれぞれ実施した。

同月二一日は、延五七(六)名、延一一五時間、

同月二二日は、延七一(七)名、延一二四時間、

同月二三日は、延四五(五)名、延一〇九時間、

同月二四日は、延七九(一三)名、延一七九時間、

同月二五日は、延三六(五)名、延七七時間、

同月二六日は、延七九(四)名、延一一〇時間、

同月二七日は、延二四三(六)名、延三二八時間、

同月二八日は、延一〇三(五)名、延一五五時間、

同月二九日は、延五〇(四)名、延七二時間、

同月三〇日は、延一〇(五)名、延五五時間、

五月一日は、延一七(五)名、延七三時間、

同月二日は、延三〇(四)名、延七九時間、

同月三日は、延七(四)名、延三一時間、

同月四日は、延四七(二)名、延四三時間、

同月六日は、延二四(四)名、延八一時間、

同月七日は、延六〇(四)名、延八五時間、

同月八日は、延三六(二)名、延三三時間、

同月九日は、延七(四)名、延三七時間、

同月一〇日は、延六(四)名、延四四時間、

同月一一日は、延四二(七)名、延一一二時間、

同月一二日は、延五七(六)名、延一五三時間、

同月一三日は、延五三(八)名、延一二三時間、

同月一四日は、延四四(六)名、延一一三時間、

同月一五日は、延八六(五)名、延一五七時間、

同月一六日は、延一二(七)名、延一四九時間、

同月一七日は、延九(四)名、延四〇時間、

同月一八日は、延一四(八)名、延五八時間、

同月一九日は、延一四(五)名、延七二時間、

同月二〇日は、延二五(四)名、延八八時間、

同月二一日は、延一一(七)名、延六三時間、

同月二二日は、延二六(六)名、延六〇時間、

同月二三日は、延一〇(七)名、延六二時間、

同月二四日は、延一一(五)名、延六四時間、

同月二五日は、延三一(五)名、延七六時間、

同月二六日は、延五六(一)名、延一三〇時間、

同月二七日は、一一時以降活版第二部の一〇名に対し部分スト、一六時三五分以降広告第一部、印刷部の最高闘争委員二名に対し、一七時五〇分以降連絡部、機報部、社会部、文化部、運動部の一一名に対し、一八時三八分以降連絡部員一名に対し、二〇時以降校閲部員一名および発送部の本部闘争委員一名に対し、二三時三〇分以降整理部員四名に対し各指名スト、二三時四五分以降発送部員一四名に対し超勤拒否のスト、二三時五四分以降発送部組合員一四名に対し部分スト、四時以降印刷課員一三名に対し超勤拒否のストを各実施した。

(2)、ところで、新聞製作工程は編集局において、まず記事取材に始まり、送稿、整理、校閲を経て工務局に移り、採字、組版、紙型作成、鉛版鋳造の過程を経て、輪転機により印刷され、ついで発送部に移り、部数整理の後、梱包、発送される順序となつている。

右はすべて厳密な時間計画に基づく完全な流れ作業であり、右工程の一部に、作業の中断または遅滞が発生すれば、必然的に新聞発行の不能、または遅延もしくは報道の遅滞を生じ、報道の迅速と正確を生命とする新聞の価値は甚だしく損われ、公器としての新聞の使命は全く失われるにいたり、ひとたびかかる事態が発生すれば新聞に対する信用性は全く失われ会社は致命的な打撃を蒙ることとなり、新聞企業においては些細なストですら、企業そのものを破綻せしめる危険性を常に包含している。

(3)、ところが、指名ストが実施される具体的実情は、西労の幹部が、会社に対しては何の前ぶれもなくストをかけられる組合員所属の職場に赴き闘争指令を読みあげると、同指令をうけた組合員は即座に仕事を放棄して西労闘争本部に赴き、その後西労から会社に対しその旨通告がなされた。しかし、同組合員がいつまで同職場を放棄するかは告げられず、同組合員は、何の前ぶれもなく、西労の幹部から同ストを解除する旨を告げられて職場に復帰し、その後西労から会社にその旨通告がなされていた。

(4)、このため、会社は、いつ、いかなる職場で、いかなる作業員がどの程度の時間作業を放棄するか予測しえず、また超過勤務は新聞企業における作業の性格上必要やむをえないもので、超勤拒否は所定就業時間内における職場放棄と同様業務を阻害するものであるため、常時西労組合員全員が職場を放棄した場合と同様の態勢をとらなければならないこととなり、その対策として製作工程につき非常工程を実施し、夕刊につき一五分、朝刊につき三〇分、各締切り時間を繰り上げ、朝刊一一版と一三版を、一四版A、Bを、長崎県南版と県北版を各合版する等の統合を行ない、非組合員である会社職制に対し長時間にわたる勤務或は待機を要請し、非製作部門要員を製作部門へ応援勤務せしめ、また、三労との争議妥結後は三労組合員に協力を求め、辛うじて新聞の製作維持に努めた。

(5)、しかしながら、紙面の低下は日を経るに従い覆うべくもなく、誤字、誤植が増加し、各版、各面を通じニユースの掲載は著しく遅れ、特に統合版にあつては、ほとんど連日まる一日遅れ、新聞の速報性は大幅に失われ、新聞に与えられた公器としての使命は失われるにいたつた。

他面、職制も自己本来の職務に加え、待機或は自己の職場以外の仕事のために疲労その極に達し、同年五月二七日頃には、会社として新聞発行すら危険な事態にたちいたつた。

(三)、発送職場の違法行為

(1)、販売局発送部では印刷された新聞を送り先別に検数・仕分けし、販売店に送り出す作業を行なつているが、同作業は所定発送時間に間に合わさなければならないため、特に時間の厳守が要求され、昭和三九年四月八日頃同部には部長以下八九名の従業員中三五名が西労所属組合員、一二名が非組合員、その他が新中労、同志会所属組合員であつた。

(2)、西労は、右賃金増額の交渉に入ると同時に発送部職制に対し従前休憩時間に行なつていた職場教宣を二一時より約一五分間の作業時間中に実施することの許可を強要したが、同職制は職場教宣は休憩時間中に行なうよう指示していた。

(3)、ところが、同年四月八日以降同年五月二八日にいたるまでの間、ほとんど連日、西労闘争委員、同部所属以外の西労組合員多数が発送職場に押しかけ、同部所属の西労組合員もこれに加わり職制に対し大声で威嚇し、つるし上げ、発送業務を妨害し、職制・守衛に対して暴行傷害を加え、或は会社施設を損壊するなど、同職場の秩序は極度の混乱に陥つた。その具体的事実は次のとおりである。

四月八日、西労の闘争委員多数が発送職場に押しかけ、発送部長に対し右作業時間中の教宣の許可を執拗に要求した。

同月一〇日、西労闘争委員は就業時間中の同職場内西労組合員と合同して同じく教宣の許可を求めて約四五分間にわたり発送部長以下の職制をつるしあげた。

同月一二日、西労幹部は同職場において職制をとり囲み「作業に支障があるというなら何時何分にどういう支障があつたか証拠を出せ」と申し向け、同職場内西労組合員も加わり三〇名以上が大声で「貴様らは職制とは認めん」など悪口をあびせ、仕事中の職制の椅子をゆするなどにより業務を妨害し、岡田発送部次長の上体を激しく突きとばした。

同月一三日、西労闘争委員は大挙して同職場に押しかけ、最高闘争委員福山は発送部長に対し大声で「返事をせんか」などと威嚇し、闘争委員三浦は仕事中の渥美発送部次長に「むこうへいけ」と激しく迫り、同職場の西労組合員半田は同次長の肩を叩いて注意をうけるや同次長に対し「貴様クラスゾ」と申し向けるなど同職場は混乱状態に陥つた。

会社はこのような同職場の状態を憂慮し、同月一四日夕刻労働協約第四六条第五項但書に基づき以後会社業務に関係のない西労組合員の同職場への立入を禁止しその旨西労に通告した。しかし、西労は右通告を無視し、同日夜には略全員の闘争委員が、同職場に押しかけ、職制の制止を無視して同職場内に入り、同所にいた労務部長と激しい押し問答を繰り返し、一旦退去した闘争委員らは、同部長の教宣不許の注意を無視して廊下から同職場内に対しスピーカーで教宣を行なつた。

同月一七日以降連日闘争委員が同職場に押しかけ、廊下より窓ごしに就業中の同職場内組合員に対して教宣を強行し、同月二〇日頃からは同職場内で就業中の組合員と闘争委員との間で大声で呼応し、同月二三、二四日頃には、最高闘争委員深井は同職場の窓枠に腰をかけて窓の開閉を阻止し職制の退去指示にも応ぜず就業中の西労組合員を煽動し、同組合員もこれに応じて大声でわめき同職場内は喧騒を極めた。

同月二五日会社は、西労と労使幹事会を開き右紛争状態打解のため説得を試みたが、西労は応ぜず、このため会社は同日夜から更に同職場が混乱することを憂慮し、一般職制を動員して同職場廊下入口に待機せしめ闘争委員らの同職場内への立入を阻止する態勢をとつた。同夜闘争委員ら二〇名位は同廊下入口に押しかけ、労務部長の退去指示に応ぜず、制止する職制との間に約四〇分にわたる押し問答がなされた。

同月二六日以降二九日まで毎日同廊下入口で職制と闘争委員らの対峙が続いた。

同月三〇日、闘争委員らは、労務部長との会談席上、同職場の紛争につき会社と協議解決したい旨の意向を示しながら、その直後同職場に押しかけ話合の素地を一方的に踏みにじつた。

五月一日、最高闘争委員深井、闘争委員三浦は闘争指令を出すと偽り同職場内に入り教宣を強行した。

同月二日、最高闘争委員上原、闘争委員三浦は同職場内に入り、同職場内では、職制の制止を無視して、西労組合員多数が各所で怒声をあげ、発送部長から同職場の西労組合員鬼木に対して退去指示書が手交されるにいたつた。ついで、同職場内にいた公休中の同職場の西労組合員半田が、勤務中の西労組合員と呼応し、発送部長に暴力を振わんとしたため加藤販売局次長の指示により守衛二名が右半田を同職場外に連れ出すべく同人を伴つて同職場入口に向つたところ、半田は守衛の腕を抱え発送積出口にいたる階段に引きづり込み、階段の中程で、先に階段を降りていた柴田守衛を後から突き落し、同人を階段下まで転落させ同人に全治二週間の傷害を与えた。

同月六日、西労幹部は外部オルグを同行して同職場に入り、就業時間中教宣を強行し、最高闘争委員福山は部次長、課次長をひきづり倒した。

同月七日以降一二日まで、連日、西労は同職場に外部オルグを同行して押しかけ、教宣を強行した。このため同職場内部は喧騒を極め、右外部オルグも再三にわたる退去指示を無視して同職場内に留つた。

同月一三日一六時三〇分から同職場の紛争につき労使幹事会が開かれたが、その開催中闘争委員三浦は同職場内に入り教宣を行ない、また、西労は同幹事会が続いて開催されることを要求しながら、同夜西労幹部は社外オルグ一三名を同行して同職場に押しかけ、職制の退去指示を無視して同職場内に留つた。

同月一五日会社は同職場廊下入口に扉を設置し、部外者の立入を禁止した。しかし、闘争委員は同日以降も引続き同職場内の西労組合員と呼応して、扉を開き、鍵を破壊し、再三にわたり窓ガラスを破つた。

同月一七日夜、最高闘争委員深井、宗の両名が同職場に乱入し、このため同職場内は混乱状態に陥り、その間作業遂行は不能となつた。

同月一八日西労組合員は扉を破つて同職場に突入し、教宣を行なつた。右突入の際人事課長はガラスの破片で手に負傷した。

同月二〇日、同職場内で待機中の職制十数名が、同職場の西労組合員らから、ズボンに謄写用インクをすりつけられた。

同月二一日、会社は同職場入口、職場内各所に業務に関係のない者の立入を禁止する旨の掲示をなしたが、入口に掲示した貼紙はすぐにはがされた。同日以後二七日まで連日闘争委員らは職場に乱入し、教宣を強行し、作業中の組合員もこれに呼応し同職場内は喧騒と混乱を極めた。

同月二二日から二七日まで連日休憩時間中の同部西労組合員らは労務部室内に乱入し労務部員をつるし上げ、或は労務部長私宅に電話して家人を威嚇し、または会社役員室に押しかけるなどの行為をなした。

(4)、右西労の行為に対し会社は、前叙各対策の外、西労に対し文書で警告し、口頭で注意し、また、四月二五日以降は事務系・販売系の職制を動員し同職場の混乱防止にあたらせる等秩序維持・業務遂行に努めたが、同職場の秩序維持は全く不能となり、右職制は一七時三〇分の終業後いずれも待機を指示され、紛争の生ずる二一時から二二時まで数十日にわたり連日数十名が待機を余儀なくされ、このため右五月二七日頃には疲労困憊に陥り、同職場の混乱は、単に同職場のみにとどまらず会社全体に波及することが必至となつた。

(四)、叙上、(二)(三)の理由により、会社は不安定不完全な西労組合員の労働力を排除し、安定した労働力による新聞製作工程保持により前記新聞発行の危機を防止すべく、また、前記発送職場混乱の受忍も限界に達したので、企業防衛のため緊急やむをえない処置として会社本社についてロツクアウトをなしたものである。

(五)、ロツクアウト継続の正当性

会社は、西労から同年五月二九日以降数次にわたり団体交渉の申入をうけたが、いずれも労働協約を無視した即日開催を要求するものであり、また同年七月一三日以降毎週月曜日定例的に会社・西労間で開催されている労働協約第四〇条第二号による協議をも、西労はこれを無視する態度を示している。

他方、西労は、本件ロツクアウト以後、会社役員私宅にデモをかけ、または連日深夜電話をかけ、ニユースカーで会社社長・職制私宅附近を廻り社長・職制の誹謗中傷をなし、福岡市内各所において会社が組合員に平和協定を押しつけ組合を弾圧しているなどと事実を曲げて宣伝し、更に、本社周辺にピケをはり、よつて新聞の出荷・会社従業員の就労を阻止し、新聞の発送を遅延させた外会社従業員を負傷させ、会社警備員の制止を無視して集団で会社本社構内に乱入し、また「西日本新聞お断り」の横断幕・看板を掲示し、会社の新聞販売店に対し新聞の取扱中止を強要し、新聞購読者に対しては購読料の滞納を要求するなど西日本新聞の不買運動を行ない、西労組合員は岡田発送部次長・持丸発送部計数課次長に暴行傷害を加えるなどの行為をなしている。

右事情からすれば、西労は誠意をもつて争議妥結のため団体交渉を行なう意図も、また争議態勢を解いて同組合員が真に就労する意思もないことが明らかで、申請人らの確実な就労も未だ期待しえないから、本件ロツクアウトはなお継続する必要がある。

三、賃金請求権について

叙上のように、本件ロツクアウトは正当で、また、その継続について違法の点はないから、会社は、ロツクアウトによつて就労を拒否した申請人らに対してロツクアウト中の賃金を支払う義務はない。

よつて、申請人らの本件仮処分申請は失当である。

第四、疎明〈省略〉

理由

第一、当事者

会社が日刊新聞の発行を業とする株式会社であること、申請人らは会社の従業員であり、会社従業員で組織している西労の組合員であること、会社従業員をもつて組織する労働組合には西労の外新中労、編労、同志会の三組合があり、この三組合を一括して三労と呼称することは当事者間に争がない。

成立に争のない疎乙第五号証、第一四号証の二、四、第三〇号証の二、原本の存在および成立に争のない疎甲第六四号証、証人梶原景親の証言、申請人郡島恒昭本人の供述によつて真正に成立したものと認める疎甲第六二号証の二二に当事者間に争のない事実を綜合すると、昭和三九年三、四月頃における会社の全従業員数は千四百名位で、その内西労所属組合員は三百数十名、三労所属組合員は六百数十名であり、又当時における会社の本社勤務の全従業員数は千名位で、そのうち申請人ら西労所属組合員は二百六十名位、本社以外に勤務する西労所属組合員は八十名位であつたことを認めることができる。

第二、ロツクアウト

成立に争のない疎乙第二八号証の二、原本の存在および成立に争のない疎乙第二八号証の一に当事者間に争のない事実を綜合すると、会社は、昭和三九年五月二八日午前七時西労に対して、会社本社に勤務する西労組合員についてロツクアウトを通告し、同日以後同組合員の会社本社構内への立入を禁止したことが認められる。

第三、

一、賃金増額要求交渉の経過

成立に争のない疎乙第一号証、第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証、第一〇号証、第一二号証の一、二、第一四号証の一ないし一五、第一五号証、第二八号証の二、第二九号証、第三〇号証の一ないし三、原本の存在および成立に争のない疎甲第一ないし一四号証、第一五号証の一、及び疎乙第九号証、第一一号証、第一三号証、第一九ないし二三号証、第二八号証の一、申請人郡島恒昭本人の供述により真正に成立したと認める疎甲第五六ないし五八号証、第六二号証の二、三、証人内田敏明、同梶原景親の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すると、次の事実が疎明される。

西労は会社に対し昭和三九年三月一〇日一率金七、〇〇〇円の賃金増額要求をなし次で三労も同月一八日金五、五三二円の賃上げを要求した。

ところが、当時、既に、日本経済新聞社、読売新聞社が同年秋頃から九州に販売網を拡張して進出してくることが決定的であつたため、右両社との間に以後約二年間にわたり激しい販売戦が予想され会社が同販売戦に勝ち抜くためには会社の有する全力を右販売戦に発揮することを要し、このためには、会社の力を労使間の交渉に損耗させることはできるかぎり避くべきであると共に、会社は今後約二年間に約一〇億円以上の資金を投入して機械設備等の充実をはかる必要があつた。従つて会社は企業の運営上かかる事情の下で収支の調和を崩すことは危険であり、この危険を回避するためには総収入に対する人件費の割合を恒常化する方針を確立した。よつて会社は同月二七日全組合に対し被申請人主張のような基本的態度を表明し、次で同年四月三日予算説明会を開催し被申請人主張の如き事情を説明した。

ところが西労は、会社の基本的態度を不満とし、前記要求を貫徹するため同年四月八日会社に対して同月一一日から随時争議行為を行なう旨通告し、同日から、指名スト、時限スト、超勤拒否によるストを行なつた。

西労の右賃金増額要求につき、会社、西労間に労使協議会、団体交渉が行なわれたが、同月一八日会社は西労に対し、昭和三九年度金二、〇一六円、昭和四〇年度金二、一〇〇円の賃金増額をなすこと並びに前示理由により右二年度分につき一括して賃金協定を締結することを回答した。

しかし西労は、右会社回答を拒否し、殊に、会社が右二年度分につき賃金協定の締結を求めることは、平和協定を押しつけるものであると主張し、同年五月二六日まで前後一一回に亘る団体交渉においても双方の主張が対立したまま進展しなかつた。

なお三労は、同月一三日前示会社回答の内容で妥結した。

前掲疎甲第五六ないし五八号証、第六二号証の二、三中、叙上認定に反する部分は措信し難く、その他叙上認定を覆すにたる疎明は存在しない。

二、西労のストおよびその影響

(一)、成立に争のない疎乙第一五号証、第三〇号証の一ないし三、第四九号証の一ないし四、第五〇号証の一ないし五、第五一号証の一ないし四、第五二号証の一ないし九、第五三号証の一ないし一〇、第五八、五九号証、第六〇ないし六二号証の各一ないし三、第六三、六四号証、第六七号証の一ないし四、証人後藤安夫、同内田敏明の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すると、西労は昭和三九年四月一一日以降同年五月二七日まで、同月五日を除き、連日、被申請人主張の人員(但し、五月一六日延人員一二名とあるは同一二一名)が略同主張の時間、会社本社の編集局の各部、工務局、技術部、活版部、写真製版部、印刷部、販売局発送部など被申請人主張の職場において同主張のごとく合計三二六波、参加延人員一、九八八名、延時間四、一五〇時間(超勤拒否は延時間より除く)におよぶ指名スト、部分スト、超勤拒否によるストを行なつたこと、ストは主として西労闘争委員が闘争本部で発せられた指令書をストを行なう西労組合員の勤務する職場に突如持参し、闘争指令を読みあげて伝達すると、指名ストの指令をうけた組合員は即時職場を放棄して組合の指揮下に入り、また超勤拒否の指令をうけた組合員は残業を拒否し、同指令伝達後西労から会社労務部に同指令書が届けられたこと、ストを行なつた組合員は同解除指令により職場に復帰していたが、復帰時期は区々で会社として予測しえない状況にあり、指名ストは主として作業密度の高い時期に多く発せられていたことを認めることができ、申請人郡島恒昭本人の供述によつて成立の真正を認めうる疎甲第五六号証中叙上認定に反する部分は措信し難く、その他右認定を覆すにたる疎明は存在しない。

次に成立に争のない疎乙第六六号証の一ないし二〇、証人後藤安夫、同内田敏明の証言、申請人郡島恒昭本人の供述を綜合すると、三労は同年四月二一日以降同年五月六日頃まで、同月五日を除き全職場を通じてのスト三回を含め指名スト、部分ストをなしたことを認めることができる。

(二)、成立に争のない疎乙第四号証、第一六ないし一八号証、第二四号証、第三〇号証の一ないし三、第五五、五六号証の各一、二、第五七ないし五九号証、第六〇ないし六二号証の各一ないし三、第六三ないし六五号証、証人加藤稲穂、同後藤安夫、同松田信行、同内田敏明の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すると、次の事実が疎明される。

本社における新聞製作の工程は編集局整理部における取材原稿の整理、工務局活版第一部における文選及び製版部の製版、編集局校閲部の校閲、活版第二部大組課における大組及び大刷、印刷部紙型課及び鉛版課における紙型鉛版の作成、同部印刷第一、二課の印刷、販売局発送部における梱包発送の順となつている。

会社は九州地区を配布区域とする新聞社であるが、昭和三九年四月一日当時会社が一日に発行する新聞は西日本新聞朝刊、夕刊および西日本スポーツ朝刊がある。西日本新聞朝刊には一一版、一三版、一四版A、一四版B、一五ないし一七版が、同夕刊は六ないし八版が、西日本スポーツは二ないし四版があり、一日に合計三〇余種類の新聞が作成されている。

新聞はニユースの速報性の要求と新聞として価値ある時間内に配布されなければならないことおよび前記のように毎日多種類の新聞を作成しなければならないことから、極めて短時間の時間的制約のもとに流れ作業によつて製作されており、製作すべき新聞の各版各面につき、前叙各工程に従つて原稿締切、製版渡、活版渡、大組始、大組終、紙型渡、刷始の各時刻および発送すべき列車、自動車が各定められている。

かように、新聞各版につきそれぞれ作業時間を異にする関係上叙上新聞作成に直接関与する部門勤務の従業員はいずれも五時から八時頃までを除く終日を予め前月から予定された勤務割に従い各版作成に応じた時差出勤による交替制勤務となつており、かつ超過勤務も新聞製作工程の性質に基く必要から予め予定せられ、平常時には異議なく実施せられていた。

前記西労のスト(もつとも同年四月二一日より五月六日頃までに行なわれた三労のストを含む)に対処するため会社は同年四月一一日以降夕刊につき一五分、朝刊につき三〇分各原稿の締切時間を繰上げ、統合版たる朝刊につき一一版と一三版、一四A版と一四B版を各合版し、夕刊二面を前日組にして通し、右朝刊統合版の二、三面を通し、また右朝刊一四A版の長崎県南と県北を通す等の非常工程を採つた。しかしストは前述の如く連日予告なくして波状的に繰返され、しかも新聞発行工程は極めて時間的に制約された高度の流れ作業で、瞬時の停滞を許さない性質のものであるため、会社はストに備えて予め応援要員の確保に努めるとともに常時職制を待機せしめ、スト実施の都度早急に応援要員及び待機職制の代替配置等の応急措置を講じたのであるが、これがため職制は長期に亘り長時間の勤務を余儀なくされ、且後記発送職場の秩序保持のためロツクアウト通告当時には肉体的精神的に極度に疲労困憊し、辛うじて非常工程を実施する状態となり、一方紙面もスト実施時における代替配置の際の停滞混乱、代置職制の不慣れ等に因り誤字、誤植が多くなり、漸次低下するに至つた。

申請人郡島恒昭の供述及びこれにより成立を認める疎甲第五六、五七号証、第六二号証の七(原本の存在成立共)、第七一、七二号証の各一、第七五号証、第八〇号証中叙上の認定に反する部分は措信しない。

三、発送職場における紛争

成立に争のない疎乙第一号証、第二四号証、第二五号証の一ないし七一、第二六号証の一、二、第二七号証、第二九号証、第三〇号証の一ないし三、第五八号証、第六五号証、原本の存在及び成立に争のない疎乙第一九ないし二三号証、証人松田信行、同内田敏明の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すると、発送職場においては、従来組合の教宣は作業時間中である二一時より約一〇分ないし一五分間行なわれていたが、昭和三八年末における賞与交渉のさい会社は各組合に対し教宣は二一時一五分頃より四〇分間位の休憩時間中に行なうよう提案し、右賞与交渉中は一応この提案が守られ、その後も特に教宣時刻の点につき会社、組合間に別段の交渉は持たれなかつたこと、ところが西労は本件スト通告後会社に対し二一時からの職場教宣の許可を求め、会社が前記休憩時間中に教宣すべき旨を要請したにも拘らず、しつようにその許可を強要し、西労闘争委員は発送職場で作業時間中職制の制止を無視して教宣を強行し、或は作業中の西労組合員と呼応して職制を罵り、吊し上げ、ために職場は全く混乱する事態が続いたので、事態を憂慮した会社は同年四月一四日西労に対し西労組合員の発送職場の立入りを禁止したけれども、西労闘争委員その他の組合員は職制の制止を排して職場に立入り、大声で職制を吊し上げ、教宣を強行するなどして引続きロツクアウト通告当時まで紛争を継続し、よつて著しく職場の作業を妨害し、職場秩序を極度に混乱せしめたこと、この間の発送職場及びその附近における紛争の経緯内容は略被申請人主張の如くであることが疎明せられる。

原本の存在及び成立に争のない疎甲第六三号証の二ないし六、第六四号証、申請人郡島恒昭の供述により成立の真正を認めうべき疎甲第六三号証の一(原本の存在成立共)、第七二号証の一ないし六、第七八号証ならびに申請人二宮和土の供述中叙上の認定に反する部分は措信し難い。

前記引用証拠によれば会社と西労間の昭和二九年に締結された労働協約は昭和三二年頃失効したのであるが、その後失効後も右協約の精神を尊重する旨の両者の話合いが取決められたこと、同協約第八条には「組合及び組合員が行なう組合活動は原則として労働時間以外になすものとする。」と定めていること、また同第四六条第五号には「組合員は争議行為中でも社屋に出入することができる。ただし会社は場所を指定して出入を断ることができる。」と規定し、会社は今次発送職場の紛争に関し右規定に基き西労組合員の同職場への立入り禁止を求めたことが認められる。教宣時刻に関する上記経緯によれば会社が本件争議に際し従来の慣行を破棄して就業時間中の教宣を拒否したものとも認め難く、休憩時間中に教宣の十分な機会があることや労働協約第八条の規定に徴し会社が就業時間中の教宣を拒否したことはあながち不当ではない。また会社が職場の混乱を防止し、職場秩序を維持するため労働協約第四六条第五号に則り西労組合員の立入り禁止を求めたことも前示認定の職場の情況に照らし妥当を欠くものとは言い得ない。してみれば西労およびその組合員が会社の再三の指示警告に反し長期に亘り連日の如く前記認定の行為を為し、以て会社業務を阻害し、職場秩序を著しく乱したことは正当な組合活動の範囲を甚だしく逸脱した違法のものというべきである。

四、使用者が雇傭関係にある労働者の労務の提供を拒否するときは、使用者は民法第四一三条により履行の提供ありたるときより受領遅滞の責任を負担するが、信義誠実の原則により履行の提供を拒否することを相当と認むべき場合は右責任を免れるものと解すべく、また使用者が労働者の労務の提供を拒否したことにより労働者が労務を提供することができなかつたときは使用者の責に帰することができない事由による場合でない限り使用者は民法第五三六条第二項本文に従い賃金支払義務を免れるものではない。しかして信義則上受領拒否を相当とする場合には使用者は民法第五三六条第二項本文の適用についても労務提供に関する履行不能の帰責事由なきものとして、賃金の支払義務を負担しないものと言わなければならない。

使用者が労働者の争議行為に対する対抗手段として所謂ロツクアウトによる労務提供の受領拒絶を通告した場合と雖も右法理の適用を見ることには変りがない。ところで使用者がロツクアウトにつき民法第四一三条による受領遅滞の責任を負わない場合は、労働者の争議権が保障せられ民事上の免責が認められていることに鑑み、労働者の争議行為が企業の存立自体を危殆に陥れ又は使用者に異常な損害を与えるとか、その他使用者にこれを受忍させることが信義則上著しく衡平を失し不相当であると認められる場合であることが必要である。

これを本件について考えると、西労の長期に亘る波状スト(その間に三労のストを含む)により会社職制は新聞発行の非常工程の実施及び発送職場の秩序維持のために疲労困憊の限界に達し、新聞発行の可能性が困難視される状態になつたこと、西労およびその組合員が発送職場の教宣をめぐり長期連続して職場秩序を甚だしく紊乱したことは既に認定したところである。

会社がこれらの事態に対する企業防衛の止むを得ざる手段として本件ロツクアウトを通告するに至つたことは前出乙第三〇号証の一ないし三により認めることができる。

申請人らは本件ロツクアウトは、会社の所謂平和協定を西労に押しつけ、西労を切崩す目的をもつて為された攻撃的性格を有する違法のものであると主張するが、この主張に副うが如き申請人郡島恒昭の供述により成立の真正を認める疎甲第五九号証の一ないし一〇、第六〇号証の一ないし八、第六一号証、第七七号証は成立に争のない疎乙第五四号証の一ないし一三及び前記三に引用した各資料に対比して措信するを得ないし、他に該主張を首肯せしめるに十分な疎明資料はない。

よつて前記西労のストの会社企業に対して与えるロツクアウト直前の影響及び発送職場における違法な争議行為に関する諸般の事情を考察すれば会社をして尚引続きこれらの事態を受忍すべきものとすることは著しく衡平を失し、信義則に反するものと解するを相当とする。従つて会社は本件ロツクアウトについては民法第四一三条による受領遅滞の責任はなく、また延いて民法第五三六条にいう帰責事由を欠き賃金支払義務を負担しないものといわなければならない。

次に会社が現在尚ロツクアウトを解除していないことは当事者間に争がなく、西労がロツクアウト通告後繰返しロツクアウトの撤回及び申請人ら組合員の就労を申入れていることは申請人郡島恒昭の供述により成立を認める疎甲第七七号証に徴して明らかである。しかし成立に争のない疎乙第三〇号証の一ないし三、第三六号証、第三八号証、第三九号証の一ないし三、第四〇号証、第四六号証(第三六号証、第四〇号証、第四六号証は各原本の存在成立共)及び証人内田敏明の証言によれば西労はロツクアウト後も争議態勢を解かず引続き本社前のピケによる出荷阻止、新聞不買運動等の争議行為を実施し、また本社以外の支社支局において指名スト、部分スト等を繰返して争議態勢を継続しているもので、右就労申し入れも争議行為の中止を前提としたものではないことが疎明される。してみればロツクアウトの対象となつた争議行為は再び繰返される虞があるものと認むべきであるからロツクアウトによる受領拒否の正当性は現在まで引続き継続して存在するものというべきである。

よつて申請人らの本申請は爾余の争点を判断するまでもなく失当であるから民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 江崎弥 菅浩行 伊藤邦晴)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例